大嫌いな王子様 ー後編ー

「えっと…そのたまたま…」

私ってば、会いにきたって言えばいいのに…


「こっち家と逆だろ?今日バイトないのか?」


うん、そうだよ。ないよ。
そんな話も最近出来てない。


「…うん」


「なら帰れ。ひとりでウロウロ寄り道すんな」


なによそれ…



「いや、皆実その言い方は…「はいはい、悪かったですね!!」


プチンッとなにかが頭の中で切れた。


「帰るよ今すぐに!!もう2度と…来ないんだから!!!」



来るんじゃなかった。
らしくないことするんじゃなかった。


私は走ってその場をあとにした。


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「チッ…なんだ?意味わかんねぇ」

「いや、意味わかんないのお前だから」

「は?」

「…お前さ、頭良いくせにこんなことはわかんないんだな。どう見たってお前に会いに来てんだろ。なんでわかんないんだよ」




「俺に会いに…いおが…?」

「どう考えてもそうだろ。お前って実はバ…」


皆実の顔を見てドキッとした。


今まで見たことないような、顔を真っ赤にして嬉しそうな表情をしてたから。

コイツ、こんな顔するんだ。
なんか胸がヂリッとした。



「早く追いかけないとしなくていいケンカすんぞ」

「うっせぇよ…でもありがとな」


そう言って皆実は走っていった。

…世話の焼けるカップルだなぁ。


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あー!ムカつく!!
あの俺様キモ野郎!!
こっちの気も知らないで!!


せっかく会えたのに…
あんな言い方ないじゃんか。


なんか真っ直ぐ帰る気も起きず、私はほんとに寄り道をして近くの土手に向かった。





秋の涼しい風に癒されながら、土手でひとりボーッとする。

なんか…こんな時間もいいな。



離れてからの方が、暁斗くんのことを考える時間が増えたのは確か。
こんなに好きなんだって、より実感する。


だけどそれは私の気持ちの問題で…
暁斗くんは前と変わらないのかもしれない。

だとしたら、私の考えを押し付けるのはよくないよね。

ただでさえ、忙しい人なんだし。



謝ろう…。

風に当たってボーッとしたおかげで、冷静になれた。



あとでメッセージ送るか。
そんなことを考えながら、帰るため私は立ち上がった。




ザッ

少し先から足音がした。


「こんなとこにいたのか」

そこには、なぜか暁斗くんがいた。


「何回電話したと思ってんだよ。出ろよ」

「えっ!?」


私は慌てて鞄の中を探る。

わ、ほんとだ…暁斗くんからのすごい着信の量…



「はぁはぁ…心配かけんな」


息遣いが荒い暁斗くん。
走ってきてくれたのかな。


ぎゅう

私に近づき、抱きしめてくれる。


「すげー探した」
この涼しい時期にこんなに汗をかくほど走って探してくれたんだ。

さっきまでの怒りなんてどこへやら。
胸がぎゅーっとなる。



「暁斗くん、さっきは…ごめんね」

「いや…俺が悪かった」


なんと!!
レアな暁斗くんの謝罪。



「俺に会いに来たのか?」


ドキッ

意地悪な、でも可愛い笑顔で私を見る。


「わっえっと…なんというか…」

その笑顔を見たらなんだかもっと見たくなって、少し焦らしてみる。


「…違うのか。ならいい」

そう言ってスッと私から離れていく。


「わー!そうです!!会いに行ったんです!!」

私は急いで暁斗くんに抱きついた。
やっと会えたのに、離れちゃやだ。


「素直に言えよな」

どこまでも俺様で強気。



…なんか悔しい。


「暁斗くんは…私に会いたくなかったの?」


恐る恐る暁斗くんの顔を見る。


「そんな風に見える?」

あれ?
すごく優しい表情。



「会いたくてたまんなかった」

そう言って暁斗くんがキスをした。


数週間ぶりのキスが嬉し過ぎて…
今までだって、何週間もハグやキスがないなんて当たり前だったのに


「暁斗くん、会いたかったよー」

ダメだ、好きが溢れて止まらない。



「…バカ。俺だけじゃねぇんだな」
「え?」

そう言った暁斗くんは、さっきより深いキスをした。


神様、どうかあと10秒…いや1分誰もここに来ないようにしてください。

離れたくないんです。



「会いたくなったら連絡しろ。俺が会いに行く」

ドキンッ

それも嬉し過ぎるけど


「暁斗くんだって言ってほしい」

「は?」

「私だって…暁斗くんに会いに行きたいんだもん……」



この大好きな気持ち、どうしたらもっと伝わるかな?



「バーカ。一生言ってろ」



もうすぐ、暁斗くんと出会って1年だね。




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「阿部さん、普段から頑張り屋さんだけど今日は特にやる気がすごいわね」

「そうですか!?バンバン仕事ふってください!」


次の日のバイト。
暁斗くんに会えた私のやる気パワーはMAXとなり、仕事にも精が出る。



なんとも単純な私。


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「暁斗坊っちゃま、本日は特にお仕事が捗ってらっしゃいますね」

「そうか?いつも通りだろ」


いいえ、ご機嫌も良くお仕事もとても捗ってらっしゃいます。



伊織様は暁斗坊っちゃまのやる気の源ですね。