「伊織、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、みっちゃん」
悲しくても時間は流れて、気づけば私の誕生日になっていた。
去年を思い出す。
日付変わる前に会いに来てくれたなぁ…
「今日どっか行く?」
「誘ってもらったのにごめんね、バイト入れてて」
「勤労少女だねぇ」
なにかしていないと暁斗くんのことを考えてしまう。
勉強以外の時間は出来るだけ働いておきたい。
キーンコーンー…
校門あたりが騒がしい。
もしかして…!!?
門まで走った。
なんだかすごく緊張する。
人混みをなんとか掻き分けていくと、騒がしさの中で聞き覚えのある声が聞こえた。
「伊織呼んでよー」
「そんな子より私たちと遊んでください!」
「興味ないから」
なぜか和希くんがいて、女子に声をかけられている。
しかも、なんか毒舌みたいなこと言ってるし!!!
バチッと目が合ってしまった。
「伊織〜!!!やっと会えた!!!」
ギエーーッ!!!
この状況で見つかったー!!!
大勢の前でのハグ。
ヤバイヤバイ、視線が痛いし怖い。
「あの…とりあえず別の場所行こっか?」
「伊織!誕生日、おめでとう!!」
嬉しいけど、今はそれどころではない。
私の話全然聞いてないし。
ガシッ!!
私は和希くんの腕を掴んで過去一なぐらいの速さで走った。
ハァハァ…
「ちょ…もう無理……」
苦しい。。
「タンマー!!」
やっと立ち止まった。
「伊織、走るの遅くない?運動不足だって」
私が引っ張って走り出したけど、よく考えたら和希くんは足が速いからあっという間に私が引っ張られる状態に。
「あと、タンマって古くない?かなり久々…いや初めて聞いたかも?」
和希くんにも言われるか。
「あはは!」
息が荒い中笑っちゃったから、なんか余計苦しい。
「なに笑ってんの?」
「暁斗くんもね、私がタンマって言ったら和希くんと同じような反応してたから兄弟だなぁと思って」
今、なにしてるかな?
「伊織、笑えてるね。よかった」
「…心配かけてごめんね。ありがとう」
和希くん、今日だって私を気にかけて会いに来てくれたはず。
「和希くんはいつも優しいね」
「伊織限定だけど?」
「そんなことないよー」
周りの人みんなに優しいのを知ってる。
そこも兄弟だなって思う。
「あれ?晴やおばさんは?」
「晴は夕方まで学童で、お母さんは夕方までパートだよ」
お母さんは体調が良くなり、パートを始めた。
「晴会いたかったのにー」
「すぐ出る準備するから休んでてね」
私はコーラを出して、夕食作りを始めた。
「ねぇ伊織」
「んー?」
野菜を切っている最中で振り向けず、後ろから和希くんの声がする。
「偉いね、ほんとに」
「え、なにが!?」
「んー、なんでも」
なんでも!?答えになってないけど!?
「出来たっ!!」
昨日焼きそばの麺が安売りしてたから、今日は焼きそばと冷凍ご飯を使ったチャーハンにした。
お皿に盛って軽くラップをする。
「これで晴やお母さんが帰ってきたら、すぐ食べれる♪」
ギシー…
古いアパートだから、床の軋む音が聞こえた。
後ろを振り向くと、和希くんがそばまで来ていた。
「待たせてごめんね」
「ねぇ伊織。今、俺とふたりっきりなのは平気なんだ?」
え、なに急に…
「ドキドキとかないわけ?」
「なに言って…」
和希くんだから安心して家に入れてた。
「俺は…すげードキドキしてるのに」
そう言って和希くんが顔を赤くしながら、少し悔しそうな表情をした。
トンッ
気づけば壁まで追い込まれていた。
これは…もう古いかもですが壁ドンだな!
…なんて、また現実逃避を始めてしまう。
「えっと……」
うまく言葉が出ない。
「…なーんてな」
壁からパッと手を離し、さっきまでの表情はなくなり笑顔になった和希くん。
「俺は今でも伊織が好きだよ。だけどさ、相手が暁兄だから俺は身を引いたんだ」
暁斗くんの名前が出た瞬間、少しドキドキしてしまう。
「暁兄と一緒にいないなら…俺だって伊織を諦めたくない」
和希くん・・・
ガシガシガシッ
和希くんが自分の頭を掻いた。
「あーもー!!こんなことが言いたいんじゃなくて!!」
「和希くん…?」
「ごめん。まだ別れた理由がわからないんだ。暁兄に聞いてもなにも言ってもらえなくて。飯田さんも理由を知らなそうだし…」
「私のことなのに、巻き込んでしまってほんとにごめんね。聞いてくれてありがとう」
それだけで十分嬉しい。
「あのね、和希くん。私、暁斗くんや自分の気持ちを信じてみることにしたの」
まだまだすぐ不安に押し潰されそうになるけど。
「それにもしね、暁斗くんが私のことほんとに嫌いになっちゃってたとしても…もう1度好きになってもらえるように頑張りたいって思えるようになったの」
それぐらい暁斗くんが好き。
「片想いになっちゃうかもだけど、また…振り向いてもらえるように頑張るね!!」
フラれてからまだ数日だけど、この数日が早いようでものすごく長かった。
苦しかった。
でも、不思議と日が経つにつれて好きの気持ちがより膨らんでいって、諦めたくないって強く思えるようになった。



