大嫌いな王子様 ー後編ー

車に乗せてもらって家に向かう。


「あの飯田さん…」

「はい」


聞きたいことがあり過ぎる。


「伊織様?」

「暁斗くん…ちゃんとご飯食べてますか?」


痩せてたから心配。
って、いつまで彼女ヅラしてるんだか私は。


「伊織様…坊っちゃまはー…」

「あ、着きましたね」


あっという間に家に着いた。


「飯田さん、さっきなにか言いかけて…」

「伊織様、ゆっくり休んでくださいね」


あ、これ以上は聞いちゃダメってことかな。


「はい。…あの、これだけ…暁斗くんに渡していただけませんか?」

チーズケーキの入った紙袋を渡した。

ほんとは和希くんに連絡して、お願いしようと思ってた。


「暁斗くんに、もしいらなかったら捨ててねって言っててください」


「伊織様…必ず坊っちゃまにお渡しいたします」

私は飯田さんに一礼をしてアパートの階段を登り始めた。


「伊織様!!!」

飯田さんらしくない、大きな声。


「夜分に大声をすみません…」

「どうしましたか?」


「坊っちゃまを…暁斗坊っちゃまをどうか信じてください。あの人は、あなたのことを心から大切に想っています」


え…
じゃあ、なんで別れたの?
私のことが嫌いになった?って聞いたら、“そう”って答えたじゃん。


なのに、ほんとに信じていいの?
不安やわからないことが邪魔をして、信じたい気持ちと怖い気持ちが交差する。

私は階段を降りて、飯田さんのそばに行った。


「私…今も大好きなんです。フラれちゃったのに…」

我慢していた涙がまた溢れてしまった。
飯田さんにまた迷惑をかけてしまう。



「私から多くは言えず申し訳ございません。ですが、暁斗坊っちゃまは今も伊織様のことを想っています。どうか、少しお時間をいただけませんでしょうか?」

時間。。

「私に出来ることは…」

「お待ちいただくことです。そして、今は推薦入試に向けて集中してください」

あ、そうだ。私受験生だった。
忘れてた、、、


「坊っちゃまが、いおが入試を忘れてるかもって仰っていましたよ」

「な!!それもこれも暁斗くんのせいだし!!」


「いつもの伊織様になりましたね」

あれ…ほんとだ。
いつの間にか、涙が止まっていた。


「大変なワガママ、そしてご無礼を申し上げているのは重々承知しております。ですが…暁斗坊っちゃまには伊織様しかいません。これは私の勝手なお願いでございます。坊っちゃまにもお話ししておりません。どうかお時間を…」

飯田さんが私に頭を下げている。


「飯田さん、頭を上げてください」


やっと信じる気持ちに確信が持てた。


「はい。待ちます。待ちたいです。その代わり、そのチーズケーキ、絶対届けてくださいね」


「…はい。かしこまりました」


飯田さんが車に乗り、帰っていった。

結局なにもまだわかってないけど、やっぱり暁斗くんを信じて待ちたい。

大好きだから。



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「いお、送ったか?」

「はい、無事ご自宅に帰られました」

「ありがとな」

「坊っちゃま!!」
お部屋に入ろうとしている暁斗坊っちゃまを止めた。


「なんだよ…声でけぇ。。」

「申し訳ございません。こちら、伊織様より預かりました。暁斗坊っちゃまに渡してほしいとのことでした」

「いおから…?」

「では失礼いたします」


部屋に入って、まだ痛む右手で紙袋から箱を出す。

箱を開けると、ホールのチーズケーキが入っていた。


俺が作ってって言ったから…?


紙袋の中を見ると、フォークと小さな紙が入っていた。
フォークは…ウチのだな。
飯田が入れてくれたか?

紙は箱の下にあったのか、さっきは気づかなかった。


紙を開くと

【お腹いっぱいになりますように⭐︎】

と、書かれていた。


なんだよ、お腹いっぱいになりますようにって。


「は……いおらしい……」


繋がりを完全に切れない、弱い俺。

どんな気持ちで作ってくれたんだろう。


いお、好きになってごめん。
結局そばにいれなくてごめん。


こんなに好きなのに。


最近、涙腺が弱くなったな。
また涙が出てきた。



サクッ

フォークでチーズケーキを一口食べた。


「うま…」



会いたいよ、いお。