伊織が目を見開いた。
あぁ、ほんとになにも知らなかったんだな。
「なに…それ」
「でも、俺はこれが別れる理由とは思えない」
「弟くん、それどういう意味?」
伊織のことがあれだけ好きな暁兄が、別れるなんて…
「もっとなにか大きな理由があると思うんだ」
伊織の手を握った。
「理由を探そう!必ずなにかあるはずだから」
伊織は言葉が出ないのか、何度も頷きながら泣いていた。
ほんとは抱きしめたい。
俺なら…こんな風に泣かせないって言いたい。
だけど、最近思うようになったんだ。
暁兄の隣で幸せそうに笑う伊織が好きだなって。
だから少し待ってて。
必ず伊織をまた笑顔にするから。
しばらくして伊織が泣き疲れて眠った。
「ごめんねみっちゃん。こんな夜中に」
「ううん。連絡もらって嬉しかった。伊織のそばにいれるし」
「みっちゃんってほんといい子だねー。コーラくれればもっといい子なのに」
「なんで上から目線なのよ」
伊織をみっちゃんの所につれてきて正解だった。
「弟くんはなんで伊織のとこに?御曹司くんに聞いたの?」
「いや…。暁兄、帰ってきてから部屋をぐちゃぐちゃにしちゃって。すげー荒れてたんだ。それに…」
「それに?」
「すげー冷たい目をしてた。伊織となにかあったってすぐわかったよ。ただ事じゃないって」
くそジジイのせいだ。
アイツのせいで、、、
「よしっ!私たちで原因を探ろう!!弟くんはひとまず飯田さんに聞いてみてよ!なにかわかるかもしれない」
「わかった。みっちゃんは伊織のそばにいてあげて?俺はとりあえず帰るわ」
「もう夜中の3時だよ!?危ないから泊まっていきなよ」
「んー、ありがと。でも、暁兄心配だし」
玄関のドアを開けた。
「弟くん!私でよかったら…ううん、私に連絡してね!なんでも。あ、えっとうまく言えないけど…」
こんな夜中にいきなり連絡したのに、ほんといい子だなぁ。
ポンポンッ
無意識にみっちゃんの頭を撫でていた。
「ありがとね。また連絡する。おやすみー」
伊織以外の女の子にこんなことしたの初めてだなぁ。
そんなことを考えながらみっちゃんの家を出ると、飯田さんがいた。
「え、なんで?」
「坊っちゃま、お疲れ様でございました」
「なんでここにいるって知ってんの?」
「伊織様がご連絡くださいました」
まったく…伊織は。。
なんで諦めさせてくれねーのかな。
車に乗り込む。
「暁兄は?」
「あれから眠っております。今は牧がそばにいます」
「牧さんにも迷惑かけちゃったね」
「和希坊っちゃま。おふたりのことで迷惑など、今までかかったことがございません。そんな寂しいことを仰らないでください」
俺は、家出をしていたことを初めて悔やんだ。
「…うん」
なんで俺が泣きそうなんだよ。
「帰ったら俺、暁兄の横で寝なきゃじゃん」
「ご兄弟、仲良く一緒に寝るなんて素晴らしいじゃないですか」
明日起きた時、どうか暁兄が少しでも笑いますように。
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「おはよ」
「…みっちゃん?」
あれ・・・?
なんでみっちゃんが…
数秒経って昨日のことを思い出した。
「ごめんね、みっちゃん!私寝ちゃってた!!」
「全然〜」
え、今何時!?
スマホを見ると9:13
「学校…!って今日土曜日か」
「そうそう。伊織、なにか食べれそう?」
うーん…
「お腹空いてないかな」
「食欲わかなくても、なにか食べなきゃだよ」
「うん、ありがとう」
スマホに暁斗くんからの連絡はもちろんない。
昨日の出来事が夢じゃなかったんだと改めて実感する。
「あのさ、昨日のことだけど」
「うん…?」
「伊織、このまま諦めんの?」
それは……
「一方的にフラれて、それでいいの?しかも理由とか絶対なにかありそうじゃん」
諦めたくなんかない。
だけど、あの時の暁斗くんの表情が出会った頃に見た冷たい表情に似てて
「…ほんとに私に嫌気がさしたかもって思ってしまうの」
「あれだけ伊織を好きな奴、この先出会えないと思うよ?」
「だって…アメリカのことも知らなかった。なにも話してくれてないから。別れるし話しても意味ないって思って…」
あ、ダメだ。また涙が出る。
「無責任なこと言えないけど…私が伊織の立場なら同じこと思うだろうし。だけどさ、もし伊織が私の立場なら私と同じこと言ってくれると思うよ?」
どれだけ泣いても涙が止まらない。
それぐらい暁斗くんが好きなんだって実感する。
「信じてあげなよ?ほんとは信じたいんでしょ?それは迷惑とかじゃないから」
「なんで…みっちゃんは私の気持ちわかるの…?」
「言ったでしょ?親友だって」
わーん!!っと声を出して泣いた。
そんな私をみっちゃんは優しく抱きしめてくれた。
いいんだね。
自分の気持ちを信じて、暁斗くんを信じていいんだね。
足掻きたい。
私に出来ることなんでも。



