大嫌いな王子様 ー後編ー


伊織が目を見開いた。
あぁ、ほんとになにも知らなかったんだな。


「なに…それ」

「でも、俺はこれが別れる理由とは思えない」

「弟くん、それどういう意味?」


伊織のことがあれだけ好きな暁兄が、別れるなんて…

「もっとなにか大きな理由があると思うんだ」


伊織の手を握った。


「理由を探そう!必ずなにかあるはずだから」

伊織は言葉が出ないのか、何度も頷きながら泣いていた。


ほんとは抱きしめたい。

俺なら…こんな風に泣かせないって言いたい。

だけど、最近思うようになったんだ。
暁兄の隣で幸せそうに笑う伊織が好きだなって。

だから少し待ってて。
必ず伊織をまた笑顔にするから。



しばらくして伊織が泣き疲れて眠った。


「ごめんねみっちゃん。こんな夜中に」

「ううん。連絡もらって嬉しかった。伊織のそばにいれるし」

「みっちゃんってほんといい子だねー。コーラくれればもっといい子なのに」

「なんで上から目線なのよ」


伊織をみっちゃんの所につれてきて正解だった。


「弟くんはなんで伊織のとこに?御曹司くんに聞いたの?」

「いや…。暁兄、帰ってきてから部屋をぐちゃぐちゃにしちゃって。すげー荒れてたんだ。それに…」

「それに?」

「すげー冷たい目をしてた。伊織となにかあったってすぐわかったよ。ただ事じゃないって」


くそジジイのせいだ。
アイツのせいで、、、


「よしっ!私たちで原因を探ろう!!弟くんはひとまず飯田さんに聞いてみてよ!なにかわかるかもしれない」

「わかった。みっちゃんは伊織のそばにいてあげて?俺はとりあえず帰るわ」

「もう夜中の3時だよ!?危ないから泊まっていきなよ」

「んー、ありがと。でも、暁兄心配だし」


玄関のドアを開けた。

「弟くん!私でよかったら…ううん、私に連絡してね!なんでも。あ、えっとうまく言えないけど…」


こんな夜中にいきなり連絡したのに、ほんといい子だなぁ。


ポンポンッ

無意識にみっちゃんの頭を撫でていた。


「ありがとね。また連絡する。おやすみー」

伊織以外の女の子にこんなことしたの初めてだなぁ。
そんなことを考えながらみっちゃんの家を出ると、飯田さんがいた。


「え、なんで?」

「坊っちゃま、お疲れ様でございました」

「なんでここにいるって知ってんの?」

「伊織様がご連絡くださいました」


まったく…伊織は。。
なんで諦めさせてくれねーのかな。


車に乗り込む。


「暁兄は?」

「あれから眠っております。今は牧がそばにいます」

「牧さんにも迷惑かけちゃったね」

「和希坊っちゃま。おふたりのことで迷惑など、今までかかったことがございません。そんな寂しいことを仰らないでください」


俺は、家出をしていたことを初めて悔やんだ。


「…うん」

なんで俺が泣きそうなんだよ。


「帰ったら俺、暁兄の横で寝なきゃじゃん」

「ご兄弟、仲良く一緒に寝るなんて素晴らしいじゃないですか」


明日起きた時、どうか暁兄が少しでも笑いますように。



——————————————


「おはよ」

「…みっちゃん?」

あれ・・・?
なんでみっちゃんが…


数秒経って昨日のことを思い出した。


「ごめんね、みっちゃん!私寝ちゃってた!!」

「全然〜」

え、今何時!?


スマホを見ると9:13

「学校…!って今日土曜日か」

「そうそう。伊織、なにか食べれそう?」


うーん…

「お腹空いてないかな」

「食欲わかなくても、なにか食べなきゃだよ」

「うん、ありがとう」


スマホに暁斗くんからの連絡はもちろんない。
昨日の出来事が夢じゃなかったんだと改めて実感する。


「あのさ、昨日のことだけど」

「うん…?」

「伊織、このまま諦めんの?」


それは……

「一方的にフラれて、それでいいの?しかも理由とか絶対なにかありそうじゃん」


諦めたくなんかない。


だけど、あの時の暁斗くんの表情が出会った頃に見た冷たい表情に似てて

「…ほんとに私に嫌気がさしたかもって思ってしまうの」

「あれだけ伊織を好きな奴、この先出会えないと思うよ?」


「だって…アメリカのことも知らなかった。なにも話してくれてないから。別れるし話しても意味ないって思って…」

あ、ダメだ。また涙が出る。


「無責任なこと言えないけど…私が伊織の立場なら同じこと思うだろうし。だけどさ、もし伊織が私の立場なら私と同じこと言ってくれると思うよ?」

どれだけ泣いても涙が止まらない。
それぐらい暁斗くんが好きなんだって実感する。


「信じてあげなよ?ほんとは信じたいんでしょ?それは迷惑とかじゃないから」

「なんで…みっちゃんは私の気持ちわかるの…?」

「言ったでしょ?親友だって」


わーん!!っと声を出して泣いた。
そんな私をみっちゃんは優しく抱きしめてくれた。


いいんだね。
自分の気持ちを信じて、暁斗くんを信じていいんだね。


足掻きたい。
私に出来ることなんでも。