大嫌いな王子様 ー後編ー


どれぐらい時間が経ったんだろう。
和希くんが誰かに電話をしている。


「伊織、おばさんにも外出許可取ったしちょっとついてきて」

「え!?」


時間はもうすぐ深夜0時を回ろうとしている。


「こんな時間に危ないよ」

「危なくないようにするために、俺がいるんだよ?」

いや、和希くんの方が色んな意味で狙われそうで心配なんだが…(見た目などe.t.c...)



しばらく無言で歩く。
さっきは我慢出来ず泣いてしまって…心配かけたよね。
お母さんたちにも心配かけたくなかったから平然を装ってたけど

“今だけは安心して…泣いてよ”


和希くんのあの言葉を聞いて我慢出来なくなった。



だけど、あれから和希くんからはなにも聞いてこない。

フラれたこと…暁斗くんに聞いて来てくれたのかな・・・。



「あのね、和希くん…」
「もうすぐ着くよ」

スマホで地図を見ていた和希くんがこっちを見た。


そういえば、どこに向かってるんだろう。


「あ、いた」

「え?」

少し前に見える人影。

こんな夜遅くに誰??


「ほんとはさ、ふたりで話したいっていうか…一緒にいたいんだけど……今は違うなと思って」

和希くんの言っている意味がわからない。


人影がこっちに近づいてくる。
走ってる。


暗くて見えにくかった姿が、近くに来て街灯ではっきり見えるようになった。



「みっちゃん…!?」

「伊織!!」


みっちゃんは走ってきて、そのまま私に抱きついた。


「バカ伊織!!なんで連絡しないの!!」


なんでみっちゃんがここにいるの
なんでみっちゃんが怒ってるの
なんでみっみゃんが泣いてるの


全部答えがすぐわかった


「…ふぇっ。。。」


私の涙腺は激弱で、また涙が溢れてきた。




ーーーーーーーーーーーーー

「みっちゃん、喉乾いたからなにか飲み物出してー」

「なにがいい?」

「コーラがいい」

「ごめん、今ないわ」

「買ってきて」

「はぁ!?」


こんな夜分遅くにみっちゃんの家にお邪魔しております。。


「和希くん、ワガママ言っちゃダメだよ」

「だってコーラ飲みたかったし」

なのに、かなりマイペースな和希くん。


「じゃ、自分で買ってきなさいよ。お坊っちゃん?」

「鬼ババ」



「……あはは!!」

和希くんとみっちゃんがこっちを見た。
あんなに悲しかったのに、私は笑ってる。

「和希くん、みっちゃんに鬼ババなんて言っちゃダメだよ」

「だってケチなんだもん」

「伊織!このワガママ弟、もっと怒らなきゃだよ」

和希くんたちのおかげで、辛さを一瞬忘れられる。



「ありがとう。あのね…」


今なら言える。



「フラれちゃった」



「「は………?」」
 

「伊織、なに言ってんの?」

「暁兄が伊織をフッた…?」


「あれ?和希くん聞いてなかった?てっきり暁斗くんに聞いたのかなぁって」



ーーーー

やっぱり…暁兄のあの様子だともしかしたらと思ったけど。。
なんで別れたんだよ。
今まで別れないためにお互い頑張ってきたんじゃないのかよ。

伊織がアメリカ行きを嫌がったのか?
そうだとしても、もっとやりようがあっただろ。


「なんでいきなり!?なにかケンカとかしてたの!?」

「ううん…。今日だって久々のデートだったし」


伊織…知ってるよな?

「暁兄、卒業後の話とかしてた?大学のこととか」

「え?特に聞いてないけど…優聖の大学行くんだよね?」


マジか。


「夏休みも一緒にいてラブラブだったじゃん。御曹司くんにちゃんと理由聞いてみようよ」

「私がなにか嫌なことしてしまったのかも…。旅行行こって言ってくれたのに……」

「旅行?暁兄が?」

「うん。夏休みにね、受験とか落ち着いたらふたりで旅行行こって言ってくれたの」


暁兄、どんな気持ちで言ってたんだろ。。
伊織にアメリカの相談をせず、ひとりで抱えて。。


俺から言うべきか?
俺から言っていいのか?

暁兄がなにを考えているのかわからない。
でも、さっきの様子だと伊織と別れたいわけがない。
絶対なにか理由があるんだ。


「なぁ伊織。俺から言うべきなのかわかんないけどさ…」

「どうしたの?」

話してる間も伊織の目にはずっと涙がたまってる。
暁兄のことが好きな証拠。

好きな子の涙を見るのってこんなにキツイんだな。


「暁兄さ、あのくそジジイの命令で卒業後アメリカに行くことになってるんだ。」