えっと・・・
今聞こえた言葉の意味がわからない。
「あの…えっ…と」
「そのスマホはそのまま使って。でも、もう俺に連絡はすんな」
なにがどうなってるの?
さっきまでデートしてたよね?私たち。
「なん…で?暁斗くん!」
なにかあったの!?
それとも
「私のこと…嫌いになっちゃった…?」
たくさん迷惑かけてきたから。。。
「そう」
ドクンッ
「もう無理。じゃあな」
待ってって言いたいのに
嫌いな所、全部直すからって言いたいのに
なにひとつ言葉が出てこない。
泣きわめくことも出来ない。
帰っていく暁斗くんの背中も追いかけられない。
私・・・フラれたんだ。
ーーーーーーーーーーーーー
ガシャーーーンッ!!
なんだ!?
バタバタバター…
部屋を出て廊下を走ってる間も、ものすごい音がする。
音は暁兄の部屋からのようで、一足先に飯田さんがきていた。
「暁兄!?どうしたんだよ!!」
部屋の中は椅子がひっくり返り、物が割れてたりすごいことになっていた。
こっちを振り向いた暁兄の表情にゾクッとした。
まるで感情が無い、無機質…のような表情。
冷めた目。
なにも言わずに、今度は机を投げた。
ものすごい音が響く。
「坊っちゃま!!やめてください!!」
飯田さんが必死に止めるけど、暁兄は飯田さんを振り払い今度は花瓶かなにかのガラスの破片を持った。
暁兄の右手から血が出てる。
「暁兄、やめなよ」
俺は暁兄に近づく。
「…来んな」
やっと喋った。
「来んなって言ってんだろ!!」
ぎゅっ
暁兄を抱きしめた。
「ごめん。暁兄がこんなになっちゃうまで助けてあげられなくて…ごめん」
カシャンッー…
暁兄が持ってた破片を放した。
「手当しよ?んで、ゆっくり話しようよ」
力が抜けたのか、暁兄はその場に座り込んだ。
そして、俺を抱きしめ返しながら泣いた。
俺は…そんな暁兄を抱きしめることしか出来なかった。
ーーーーーーーーーーーーー
「飯田さん、ありがとう」
「とんでもございません」
あれから暁兄は泣き疲れたのか寝てしまった。
最近ろくに食べてなかったし、きっと寝れてもなかっただろう。
暁兄の部屋はヒドイ状態なので、飯田さんに暁兄を俺の部屋に運んでもらった。
「あんなに荒れるって…絶対伊織のことだよな」
「そうですね…」
アメリカのことか?
でもあれは夏休みの時、暁兄は伊織と乗り越えたいって言ってたよな?
なのにあの様子は……
まさか
スマホを出して履歴から伊織を探す。
名前を押す直前で指を止めた。
俺がかけていいのか…?
でも、、、
伊織、今どんな気持ちでいるんだよ。
「飯田さん、俺…」
「お送りいたします」
飯田さんは全部わかってくれている。
だからこそ
「ひとりで行きます。飯田さんは暁兄のそばにいてあげてください」
「…かしこまりました。坊っちゃま、お気をつけて」
すぐに家を出て伊織の家まで夢中で走った。
走りながら電話をするけど、全然繋がらない。
「ハァ…ハァ」
9月末の夜でもまだまだ暑くて汗だく。
アパートが見えてきた。
いきなりだけど、いいよな。
電話繋がんねーし。
ピンポーン…
「はーい」
この声は。。
ガチャッ
「あれ?和希くん。どうしたの?汗だくだし」
ドアを開けたのは伊織。
あれ…?
いつも通り…かな。
「いや…さっきから電話してたんだけど出ないから…」
「そうだったの!?ごめんね、スマホ見てなかった」
いや、違う。
「急ぎの用事だった?わざわざ来てもらってごめんね」
全然いつも通りじゃない。
「とにかく汗拭かなきゃね。タオル持ってくるね」
ガシッ
部屋の中に入ろうとする伊織の腕を掴んだ。
「…こっち見てよ」
目を合わせようとしない伊織。
「なっなに言ってるの?和希くん、来てもらったのにごめんね。晴も寝たところだし夜遅いから今日はー…」
こんな…無理して我慢してる伊織の姿を見たら我慢出来なかった。
伊織を玄関の外に連れ出し、抱きしめた。
「なんだよ…伊織も暁兄も。。我慢すんなよ」
小さな伊織の体が震えてる。
声が出ないのか、俺から離れようと腕に力を入れている。
「伊織。今こうしてるのは力になりたいからだから。だから、今だけは安心して…泣いてよ」
邪な気持ちがゼロって言ったら嘘になるかもしれない。
「う…うぅー…」
でも、俺が今ここに来たのは暁兄と伊織に笑ってほしいから。
そのために俺が出来ることを精一杯したいんだ。



