大嫌いな王子様 ー後編ー

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「父さん、ありがとう。そろそろ帰るよ」

部屋のドアを開けた。


「暁斗。皆実家(ここ)に残るなら、あの人のことは乗り超えないといけない。だが…その中でも私は出来る限りのことをする。だから、自分の気持ちに素直に生きろ」


「サンキュ」

部屋をあとにした。



エレベーターに乗り、1階に向かいながらいおのことを思い出す。

3年間、会えない、連絡も取れない。
そんなこと出来るのか?

また、いおに辛い想いをさせるだけだ。

くそジジイは俺たちがそんなこと出来ないって思って言ってきてる。
だからこそ、やり切ってもうなにも言わせたくない。


でもさ
それっていおも望んでくれることなのかな。


俺は
好きだから一緒にいたい
好きだから守りたい
好きだから笑ってほしい

好きだから………


「…ちゃま……」

「坊っちゃま!」

俺を呼ぶ声にハッとする。


「大丈夫ですか?ボーッとされてましたので」

気づけば飯田が待ってくれていた場所まで来ていた。


「ごめん、大丈夫だから」


車が動き出す。


「坊っちゃま、夕食についてなのですが」

「悪い、いらないって伝えといてくれるか?」

「食欲がございませんか?なにか軽いものでも…」

「いらない」

「…かしこまりました」

心配してくれている飯田に八つ当たり。
最悪だな、俺。



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悩んでたって、なにしたって時間は進み
あっという間に数日が過ぎる。


ヴーッ

『暁斗くん!夏休み明けの実力テスト、全教科90点以上取れたよ!!暁斗くんのおかげです!ありがとう(^^)』

いおからのメッセージ。


いおが帰ってから2週間が経った。

あれから会ってない。
仕事を言い訳に会うのを断ってしまってる。
だけど、ほんとはこんなに会いたいのに3年とか想像を絶する。



もしあの家を出たら、いおは一緒に来てくれるのか?
そんな俺も好きでいてくれるのか?

でも…あの家を出たら今度は和希が辛い目に遭うんじゃ………


「みーなみっ♪」

後ろからいきなり肩を組まれた。


「次体育だし、一緒に移動しようぜ」

相手は佐伯。


「サボるわ」

「え!真面目くんな皆実が!?」

「うるせぇ」

なんか…今はそれどころじゃない。


「じゃ、俺もさーぼろ♪」

「は!?なんでだよ!」

「いいじゃん。皆実いなきゃ俺もやる気でねーし」

ったく…変な奴。


体調不良を理由に、教室でボーッとする。
静かな教室になんかホッとする。


「皆実、なんかあったなら言えよ」

「…は?なんだよ、いきなり」

「べつに。たださ、考えてるばっかじゃ答えって案外出ない時ない?口に出すと違う答えが閃いたりすることもあるし」


違う答えか。。


「佐伯にとってさ、、“好き”ってなに?」

「は!!??なんだよ!!もしかして…俺に告白!?」

「んなわけねぇだろ!もういい、おまえに聞いたのが間違いだった」

「わー!うそうそ!!ごめんて!そうだなぁ…それってラブの意味?」

「まぁ、そうだな」

腕を組んで考える佐伯。


「相手のことが気になる、そばにいたい、近い存在になりたい…まぁいっぱいあるわな」

そうだよな。俺も同じ。


「あとは…好きな人に幸せでいてほしい……かな」


今の佐伯の言葉がドシンッと自分に響いたのがわかった。


「幸せ…か」

そう。
俺だっていおの幸せをいつも望んでる。


だけどさ、その幸せって
俺が勝手に考えてる幸せじゃねぇか?


「皆実はいつも伊織のことを考えるから、ほんとすげーなって思うよ」


俺は自分の気持ちを押し付けてるだけなんじゃないか。


「そんなことない…」

俺の思ってるいおの幸せの中には、絶対俺がいることが当たり前で
その時点でおかしいんだよ。


いや、違うか。


「皆実?」

ほんとは前からわかってたのに、この答えを見ないようにしてたんだ。
見てしまうとそれしかないって思ってしまうし、そもそも俺に受け入れる覚悟がない。


だけど、もう限界なのかもしれない。
これ以上巻き込んじゃダメだ。


「なんかスッキリした。ありがとな」

「おまえ…なにー…」

キーンコーン…

佐伯の言葉を遮るようにチャイムが鳴った。



ガタンッ

「悪い、早退するわ。体調悪いって伝えといて」

「待てよ!皆実!!」



好き、すげー好き。
離れる気なんか全くない。
離す気もない。


世界で1番大切な人だから。