大嫌いな王子様 ー後編ー


夏休み前、くそジジイから連絡があった。


(回想)

「暁斗、元気にしとるか?」

「何の用ですか?とっとと言ってください」

「冷たいのぉ。あの娘も相変わらずおまえの周りをチョロチョロしておるようじゃしな」

ジジイ…
やっぱ俺たちのこと、調べてんな。


「用がないなら切ります」

「まぁ、そう急かすな。おまえの将来のことだと言うのに」

「は……?」


(回想終了)

あの電話で、高校を卒業と同時にアメリカに行くように言われた。

向こうで仕事のことをもっと勉強しろと。

ウチの会社はアメリカにも支社があるし、外国と仕事も多いからそれはわかる。


だけど…

「こんな早く行かすんだから、約束は守ってもらわねぇと」

「そうじゃな。では、あとひとつ条件を先に言っておこうか」


なんだ、、、?


「向こうに行っている間、あの娘と一切連絡を取るな」


は??

「父さん!話が違います!」

言葉が出ない俺に代わって、父さんがくそジジイに言ってくれる。


「それぐらい出来るはずじゃぞ?わしに逆らうぐらい好きなんじゃろ?」


ジジイ…マジありえねぇ。


「夏休み前もすげー量の仕事振りやがって、それも期限内にこなしたのに今度はこれかよ」

「言ったはずじゃ。わしはあの娘と一緒にいることを認めんと」


アメリカには3年ほどいなきゃいけない。
その間、連絡取れないとかありえねぇよ。


「わしは約束は守っとるぞ?おまえがアメリカ行きを決めたからあの娘には一切なにもしとらん。これはわしとおまえの取引だ」


心底嫌気がさす。


「父さん、私が許しません。そこまであなたにする権利はない。なら、アメリカ行きは無しだ」

「おまえは黙っとれ。これが最後じゃ。この条件をのめるなら、あとは暁斗の好きにしたらいい」


3年間…連絡を取らずに

「会うことはー…」
「連絡を取らんのに、会うなんてもってのほかじゃ」

会うことも出来ない。


「見せてみい。おまえたちの本気の気持ちを」


すげー腹立つ
ボコボコに殴ってやりたい


アメリカ行きだって、ものすごく悩んだ。
だけど、この1ヶ月いおと過ごせたからこそ覚悟が決まったのに。



「くそジジイ…二言は無しだぞ」

「貴様こそな」


部屋を出て、エレベーターホールに向かう。



「暁斗!」

父さんが追いかけてきた。


「あんな条件のまなくていい。待っておきなさい。必ず…「ねぇ父さん。ちょっと喋ろうぜ」


会長室に向かった。


「私が許可を出すまで、誰もこの部屋に入れるな」

「かしこまりました」

ジジイのことを言ってのんかな。。
父さんが秘書にそう伝えて、会長室にふたりきりになった。


「すまない、暁斗。あの子に手を出さない代わりにおまえに諦めさすように仕向けてるんだろう」

「…父さんと母さんの話聞かせてよ」

「なにを急に…」

「くそジジイの妨害、エグかったんだろ?」


なんかわかんないけど、無性に父さんたちの話が聞きたくなった。


「…そうだな。今のように携帯で簡単に連絡なんて取れない中、私が軟禁状態にされて3ヶ月ほど会えなかったり、咲の父親が急に解雇にされたり、明るくて学校で人気者だった咲がいきなり集団のいじめにあったり…まだあるが聞くか?」

「いや、十分」

くそジジイ…マジで許せねぇ。


「私もアメリカ行きがあった。だがそれは結婚をして暁斗が生まれた頃だった」

そうだったんだ。。

「離れることは辛かったが“結婚”がお互い繋がりとして安心できるものだった。でもな…私も連絡をしばらく取れないようにされ、生まれたばかりのおまえの写真も見れず、声も聞けないのはなかなか辛かった」


「なんで…なんでそんな思いまでして皆実家(ここ)にいたんだよ!?」

父さんも母さんも…
皆実家(ここ)を出ればもっと早くに楽になれたんじゃ…
そうしたら、母さんも死なずに済んだんじゃ…!


「何度も思ったよ。かけおちしようと。でも私より咲が冷静だった」

父さんが悲しそうに微笑んだ。


「会社のひとたちはどうするの!?あなたが急に抜けたら、会社はパニックよ。働いてくれている人たちの人生をあなたは背負ってること忘れちゃいけないってね。すごい人だろ、咲は」


俺の記憶にある母さんが蘇る。
明るくて、でも怖くて、なのに優しくて……

やっぱり母さんは昔からそんな人だったんだ。