「しばくぞテメェ!何回やってんだよ」
「えっ!まだここの問題2回目ですっ」
「同じ間違い繰り返してんじゃねぇよ」
「すみませんっ!!!」
気づけば夕方。
やっぱり鬼、いや悪魔なスパルタ勉強で私の魂は抜けかけている。
暁斗くんの言っていることはなにひとつ間違っていなくて、私が同じ間違いをしすぎなんだ。
1番苦手な数学。
「学校でこの解き方聞いてる?」
「あ、うん。そうだよ」
「こっちの解き方でやってみ」
暁斗くんの教えてくれた解き方でやってみた。
「わっ!出来た!!」
「今のやり方であと3問解いてみろ」
「はい!!」
さっきよりすごく解きやすい。
「全問正解」
「暁斗くん、すごい!この解き方の方がわかりやすい!」
「俺が自分流で見つけた解き方。勉強ってこんな発見があるからおもしれーよな」
やっぱりすごい人だなぁ。
バタバタバタバタ…
聞き覚えがある足音が近づいてくる。
「チッ帰ってきたか」
バタンッ!!
「伊織〜!!来るならちゃんと教えてよー!!」
「和希くん!」
そういえば、朝来た時にいないなぁと思ってた。
ぎゅう!
「暁兄とずっと一緒とか飽きただろ!?俺と勉強しよ〜」
安定のハグ。
「和希くん、離れて。あと和希くんとは勉強しないから」
「伊織すげー冷たくなってるー!」
バリッ
暁斗くんによって強制的に離れさせられた和希くん。
「テメェはもうすぐカテキョくんだろ。とっとと準備しろ」
「今オリエンテーションから帰ってきたのにー」
「和希坊っちゃま、こちらでしたか。お部屋戻りますよ」
「わぁー!伊織、あとでご飯一緒に食べようね!」
飯田さんに見つかった和希くんは自分の部屋に連れていかれた。
「ったく…相変わらず騒がしい奴だな」
「今の時期にオリエンテーション?」
「ウチの学校変わってて、高1の夏休み直前に2泊3日であるんだよ。だるかった」
私と出会う前の話しだ。
なんか新鮮。
「なに?」
私がジッと見過ぎたかも。
「ううん、私と出会う前の話だなぁと思って」
暁斗くんが私の隣にやってきた。
「ふーん」
「なによ?」
「俺のこと考える時間が前より増えたなぁって」
嬉しそうに、そして強気な笑顔でこっちを見る。
なんだろ、1年以上一緒にいるのにまだまだ知らない暁斗くんの表情があるなぁって思う。
もっと知りたいって。
ドキドキする。
「ちょっと休憩するか。いおの昔を教えてよ」
「えっ!どれぐらい前?」
「生まれた時からでいいよ」
「いや、語れるほどの出来事がないから」
とりあえず、せめて幼稚園あたりからにとお願いして許可を得た。
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写真とかもないから、ほんと話すほどのこともなく私が楽観的でぽけーっと生きてきたことだけとかの話なのに、暁斗くんは嬉しそうに聞いてくれる。
「あっそういえば小学生の頃から同じマンションに住んでた男の子がいてね、中1でお父さんが出て行って私が途方に暮れてた時に話をたくさん聞いてくれたりしたの。お金が大変になってアパートに引っ越すことになって離れちゃったけど」
「…ふーん。そいつ、今も近くにいんの?」
「ううん、その子も中2で県外に引っ越しちゃったの」
「あっそ」
あれ?なんか急に冷たくなった?
「そのタイミングで私も家のこととかでバタバタしだして遊びに行ったりとかもなくなって、友達も自然とできなくなったかなぁ。なんかね、今思うとそれまで一緒にいた人たちは友達だったのかな?って思ったりもするんだよね」
「どういう意味?」
「放課後遊びに誘ってもらったりしてたけど、晴の面倒や家のことがあるから断ってたらだんだん誘われなくなって。それは当たり前なんだけどね。でも、それで付き合い悪いって言われ出して気づけば無視状態でクラスで孤立してた」
こんな話、するつもりなかったのに
だけど、暁斗くんが聞いてくれるからつい話してしまう。
「それでね、なんか悟ったの。もう深く人とは付き合わないって。だけどね、高校入ってみっちゃんに出会った時、この人とは友達になりたいってすごく思って。告白みたいに友達になってくださいって言ったんだよ。初めて自分から人に言ったの」
「みっちゃん、いい奴だもんな」
「うん」
そう…今も出会った時を覚えてる。



