『これは、栞里ちゃんと同じ名前なんだけど。読みかけの本に、こうやって挟むのよ』
母さんが、自分が最近読んでいる文庫本のページにクローバーの栞を挟んでみせた。
『あのまま花瓶に挿しているだけだと、クローバーはいつか枯れちゃうけど。こうして押し花みたいにしておくと、ずっと手元に残せるでしょ?』
ずっと手元に……。
『璃久が寂しくなったとき、これを見たらいつでも栞里ちゃんのことを思い出せるし。彼女を近くに感じられるはずよ』
母さんが、本に挟んでいたクローバーの栞を、俺に渡してくれる。
栞を見ると、しーちゃんの笑顔が自然と頭に浮かんで、口角がわずかに上がった。
『大丈夫。栞里ちゃんのママは、母さんの友達なんだから。今すぐって訳にはいかないけど、母さんが絶対にまた璃久を栞里ちゃんに会わせてあげるから。約束!』
『うん、約束』
俺は母さんが差し出してくれた小指に、自分の小指を絡めた。
そしてこの日以来、母さんが作ってくれた四つ葉のクローバーの栞は、俺のお守りになった。
母さんが言ったとおり、これを見るといつも栞里のことを思い出せるから。
いつしかこの栞は、俺にとって大切なものになっていた。
栞を肌身離さず持ちながら、いつか彼女に会える日を心待ちにしていた。
しかし、どれだけ待っても俺が栞里と会う日が来ることはなかった。



