「ああ。あの栞に貼ってあった四つ葉のクローバーは、初恋の女の子がくれたものだから」
昔を懐かしむような、とても柔らかな笑顔を見せられ、またもや胸がドクッと鳴った。
そんなふうに笑うなんて……。
黒澤くんは、今もその初恋の女の子のことが好きなの?
その子は、誰なんだろう。
もしかして、この間学校にお弁当を届けに来ていた、幼なじみの南実さん?
「……っ」
ていうか私、どうしてこんなにも黒澤くんの初恋の女の子のことが気になるんだろう。
おかしいよね、こんなの。
黒澤くんだって、高校生なんだから。
今まで、恋愛のひとつやふたつくらいしたことあるだろうし。
何なら、現在進行形でいま彼に好きな人がいたって別に普通のことなのに。
私は、手のひらをギュッと握りしめる。
「おい、栞里。急に黙ってどうした?」
「な、何でもないよ」
私は、黒澤くんに微笑んでみせる。
これはきっと、黒澤くんから恋愛の話を聞いたのが初めてだったから。
ちょっと動揺してしまっただけ。
「黒澤くん。早く学校行こう!」
「あっ、待てよ栞里」
私はこの意味不明のモヤモヤする気持ちを振り払うように、この場から駆け出した。



