「栞里……」
黒澤くんが、井上くんの胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「お前のことなんて……殴れるかよ」
呟くように言うと、黒澤くんは井上くんに「つい頭に来て、取り乱して悪かった」と謝り、教室を出て行った。
「花村さん、大丈夫だった?」
近くで見ていたらしい、赤松くんが声をかけてくれた。
「うん。私は大丈夫だけど、栞が……」
私は、床に落ちていたクローバーの栞を拾い上げる。
手で何度か軽く払ってみるも、栞についた汚れは落ちそうになかった。
「それよりアンタ、さっき担任からノートを運ぶように頼まれてたんじゃなかった?」
「そ、そうだった!」
村崎くんに言われて、ハッとする。
「黒澤くんの栞のことで頭がいっぱいで、忘れてた」
「しょうがないなぁ。オレが手伝ってやるよ」
「僕も」
「ごめん。ありがとう、二人とも〜!」



