「あっ……」
黒澤くんに言われた瞬間、私の記憶のなかの『しーちゃん』と呼ぶ男の子の顔にずっとかかっていた靄が一気に晴れた。
そしてあのときの幼い男の子の顔と、いま目の前にいる黒澤くんの顔がぴったりと重なった。
「うそ。黒澤くんが……あのときの璃久くんなの!? お母さんの友達の息子さんの……」
「ああ。そうだよ、しーちゃん」
黒澤くんが、ニッコリと優しく微笑んでくれる。
「ここが祖母の家の隣の県にあると知ってからは、たまにバイクで来てたんだ。ここは、しーちゃんや母さんたちとの思い出の場所だから」
「璃久くん……」
「そんな大切な場所に、こうして栞里とまた一緒に来られて嬉しいよ」
まさか、黒澤くんがあのときの男の子だったなんて。
黒澤くんはずっと覚えてくれていたのに、どうして私、今まで忘れていたんだろう。
「栞里」
黒澤くんはひとつ息を吐くと、緊張した面持ちで私を見つめる。
「俺、初めてここで会ったあの日から、栞里のことが好きだった。それからずっと、栞里を忘れたことはなかった」



