「黒澤くん、負けないで!」
私は、黒澤くんに向かって声を張り上げる。
やっぱりこの勝負は、黒澤くんに勝って欲しいから。
前に蘭菜ちゃんが、黒澤くんがトップになってからは学校内でのケンカが少しずつ減って、校内で統制ができつつあると話していた。
だから、黒澤くんがこのままトップとしてみんなを引っ張って、福羽学園をより良い学校にしていってもらいたい。
そして横峯さんにはケンカをやめて、今までのことをきちんと反省して、更生して……また昔みたいな、優しい透くんに戻って欲しいって思うの。
「お願い。勝って、黒澤くん」
「ああ。俺は、何が何でも絶対に負けねえよ」
黒澤くんが額の汗を拭いながら、私にニッと笑ってみせる。
「必ず勝って、栞里に伝えたいことがあるからな」
黒澤くん……。
私は目元の涙を拭うと、両手をぎゅっと握りしめる。
緊迫した状況が続くなか、私はゴクリと固唾を飲んで、勝負の行方を見守った。
最初こそ、ほぼ互角の戦いだったけど。そのあとの勝負は一瞬だった。
黒澤くんは背後からナイフで襲ってきた横峯をものともせず、相手の攻撃を身を翻して交わすと、隙をついて急所に拳を叩き込む。
さらに、みぞおちに蹴りで強い一撃を入れ、横峯はドサッとその場に倒れ込んだ。



