それから二人は、本格的に攻撃し合う。
黒澤くんは容赦なく横峯の顔面を殴りつけ、横峯も黒澤くんのみぞおちを拳で殴打した。
自分の好きな人と小学生の頃に仲良くしていた人が今、目の前で殴り合いのケンカをしている。
そんな光景を見るのは正直辛くて、つい顔を彼らから背けてしまいそうになる。
だけど、この勝負の行方をこの目でしっかり最後まで見届けなくちゃと思った私は、何とか真っ直ぐ前を見据える。
「ぐっ」
黒澤くんが横峯の腹に力いっぱい蹴りを入れ、蹴り飛ばされた横峯が壁にドンッと身体を派手に打ちつけた。
「ああっ、透くん……っ」
痛そうに顔を歪める彼を見て、私の口から思わず声が漏れた。
利用され、裏切られ、散々ひどい目に合わされた憎き相手のはずなのに。
自分が幼い頃に仲良くしていた男の子が、目の前で殴られるのを見ると心が痛む。
──『ねぇ、栞里ちゃん! 遊ぼうよ』
どうしても頭には、小学生の頃の優しかった透くんの笑顔が浮かんでしまうんだ。
「うっう」
じわじわと、涙があふれてくる。
二人が傷つけ合うのを見るのは辛い。
本当は、ケンカなんてして欲しくない。
だけど、それ以上にもっと苦しくて辛いのは……。
黒澤くんが、自分の好きな人が……横峯に殴られて傷つき、負けるところを見ることだ。
だから、私は──。



