黒澤くんには、今日は真っ直ぐ家に帰るように言われていたし。
そもそもこれは、黒澤くんから借りた傘だけど……傘がなくて困っているであろう透くんを見たら、放ってはおけなかった。
「私も一緒に、塾まで行くよ」
「えっ、でも……栞里ちゃん、今日は塾休みだよね? わざわざ悪いよ」
私の申し出に、眉根を下げる透くん。
「気にしないで? 自習室で勉強しようと思ってたから。そのほうが、家よりも捗るし!」
「ありがとう、栞里ちゃん。それじゃあ、お願いしてもいい?」
こうして、一緒に塾へと向かうことになった私たち。
私と透くんは、小さな折り畳み傘の中で肩を寄せ合うようにして歩く。
「ごめんね、栞里ちゃん」
「ううん」
ここから塾までは、歩いて15分ほどのところにある。
「そういえば透くんの制服姿、今日初めて見たよ」
「そうだったっけ?」
「うん。本屋さんで再会したときも、塾で会うときも、いつも私服だったから」
そして、私は今日初めて彼の制服姿を見たときから、ずっと気になっていたことを口にする。



