「栞里!」
黒澤くんが、私の元に走ってくる。
「どうしたの?」
「はい、これ」
黒澤くんが私に渡してきたのは、さっき見せてくれた黒の折りたたみ傘。
「帰ってる途中で、雨降ってきたらダメだから。これは栞里に貸すよ」
「でも、雨が降って傘がなかったら黒澤くんが濡れちゃうよ」
私は渡された傘を、すぐさま黒澤くんに返す。
「俺はいいから。栞里が風邪引くほうが嫌だし」
黒澤くんが、私に折りたたみ傘を握らせる。
「良いか? この前の進藤のことがあるから。どこかに寄り道したりせず、真っ直ぐ家に帰るんだぞ? 分かったな」
それだけ言うと、黒澤くんはタクシーに乗り込み、タクシーは病院へと向かって走り出した。
走っていくタクシーを、私は見つめる。
黒澤くん、おばあさんのことで大変なはずなのに。
こんなときにまで私のことを……。
「ありがとう、黒澤くん」
私は黒澤くんが貸してくれた傘を、胸の前でそっと抱きしめた。



