君の名を

「なんで隠してたの?」

 唇を離した美咲が尋ねる。

「サプライズだよ。今日の結婚記念日の為の」

「え……覚えててくれたんだ」

 再び鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。

「もちろんだよ。十回目の結婚記念日は、プレゼントじゃなくて、美咲の為に何か特別なことがしたくて」

「それで料理を?」

「そう。ビギナーコースは第二、第四日曜日なんだけど、どうやら俺はかなりの劣等生らしくて」

 料理教室での状況が目に浮かんで、美咲は思わず吹き出した。

「トマトひとつ切るだけだって危なっかしくて見てられないもん」

「そうなんだ。だから月に二回じゃ全然間に合いそうになくて、時間を作ってもらって先生から特別レッスンを受けてたってわけ」

「それで平日の昼間に?」

「そういうこと」

 漸く数ヶ月間の瑛斗の不可解な行動全てに合点がいき、美咲は胸を撫で下ろした。