おれは“祓えない退魔師”

 山の空気が、やけに重かった。

 洞窟の前に立った瞬間、背筋にぞわりと嫌な感覚が走る。あの時と同じだ。いや、それ以上かもしれない。

 (まだ、いる)

 奥の奥で、確かに“あいつ”が息を潜めている。

 完全には祓えていない。封じ込めているだけの、不安定な状態。
 少しでも均衡が崩れれば、外に出てくる。

 「特別試験の内容は単純じゃ」

 校長がいつもの調子で笑う。

 「洞窟内に封じられた妖を弱らせ、これに封じて持ち帰ること」

 差し出されたのは、やよい先生特製の竹筒。
 手のひらに収まるほどの大きさなのに、触れた瞬間、びりっと強い霊力を感じた。

 「封印強化仕様よ。弱らせた状態なら、ちゃんと吸い込めるから安心してね」

 にこやかに言うやよい先生。安心できる要素がひとつもない。

 「制限時間は日没まで。それまでに戻れなければ失格」

 鬼灯先生が淡々と告げる。

 「なお――今回は教員の介入は最小限とする」

 その一言で、空気が一段階冷えた。

 (つまり、ほぼ自力でやれってことか)

 隣で伊都が小さく息を呑む。
 東間はいつも通りの余裕そうな笑顔だが、目だけが鋭い。
 士稀は、冷静にまっすぐ洞窟を見据えている。

 そして俺は、ぎゅっと拳を握る。

 “お前は魂を無に還す存在だ”

 校長室で告げられた言葉が頭をよぎる。

 (また、消滅させちまったら……)

 足がすくんで、鼓動が早くなる。

 「祐くん」

 振り向くと、伊都がこっちを見ていた。

 「……一緒に、帰ろうね」

 不安そうに笑うその顔に、胸が締めつけられる。

 「大丈夫や。死ぬほどシミュレーションしたからな」

 東間が軽く肩を叩いてくる。

 「夢にまででてきたしな」

 俺が苦笑すると、東間はにやっと笑った。

 士稀がスッと前に出る。

 「時間が惜しい。行くぞ」

 その背中は、相変わらず迷いがない。でも、

 (あいつ、一人で行こうとはしなかった)

 ちゃんと、俺たちを待っている。それだけで、少しだけ呼吸が楽になる。ゆっくりと息を吸った。

 (俺は……正直、めちゃくちゃ怖い。だけどーー)

  震える足で一歩を踏み出した。

 (逃げねぇって決めただろ)

 「……行こうぜ」

 声に出すと、不思議と震えは消えていた。四人で並んで、洞窟へ足を踏み入れる。ひやりとした空気が肌にまとわりつく。

 暗闇の奥で――
 “何か”が、確かにこちらを待っていた。