おれは“祓えない退魔師”

 試験前日の夜。寮の一室に、俺たちは集まっていた。
 机の上には、洞窟の簡単な見取り図と、東間がまとめたメモが広げられている。

 「ほな、作戦の最終確認いくで」

 東間が指で机を軽く叩き、場の空気を引き締めた。

 「相手はあのクモ。完全には祓われてへん。せやから――“倒す”んやなくて、“弱らせて封印”や」
 「竹筒に入れて持ち帰る、だったよね」

 伊都が不安そうにうなずく。

 「そう。で、そのためにはまず動きを止めなあかん」

 東間が視線を士稀に向ける。

 「士稀くんは、足止め」
 「問題ない。糸と脚の動きを封じる」

 淡々と答える士稀。その声には迷いがない。

 「俺は補助やな。隙つくる係」
 「……じゃあ俺は?」

 思わず口を挟むと、三人がじっとこちらを見る。そのあと東間が、いつも通りの調子で言った。

 「祐くんは――切り札や」
 「切り札?」
 「祐くんのの霊力、あのクモめっちゃ反応しとったやろ。あれ、確実に引きつけられる」

 あの時の光景がよぎる。クモは憑りついていた伊都から離れ、まっすぐに俺に向かってきた。

 「囮、ってことかよ」
 「まぁ、言い方は悪いけどな。でも、それが一番効く」

 東間はまっすぐに俺を見る。

 「無理はさせへん。タイミングは俺らが合わせる」

 伊都がぎゅっと拳を握る。

 「ぼくも、やってみたいことあるから」
 「魔法陣、だろ?」
 「うん。少し時間かかるけど……完成すれば、ちゃんと還せると思う」

 “還す”。

 俺にはできないことだけど。

 「……任せた」

 小さくそう言うと、伊都はほっとしたように笑った。

 「最後は祐くんや」

 東間がにやっと笑う。

 「弱ったところに一発、ぶち込んだってくれ」
 「それしかできねぇからな」

 自嘲気味に言うと、

 「それでいい」

 士稀が、短く言い切った。思わず顔を上げる。

 「お前の力は使い方次第だ」

 俺をまっすぐ見て、すぐに視線を外した。相変わらず、不器用な言い方だ。

 (でも、前とは確実に違う)

 少しだけ、胸の奥が軽くなる。

 「ほな決まりやな」

 東間が手をパンと叩く。

 「四人で、絶対成功させる。それだけや」
 「うん」
 「当然だ」
 「……ああ」

 小さくうなずいたけど、胸の中の不安は消えないしめちゃくちゃ怖い。

 (やるしかねぇ)

 静かに拳を握った。