おれは“祓えない退魔師”

 目を覚ますと、白い天井が視界に広がっていた。
 鼻をくすぐる薬品の匂い。身体のあちこちがじんわりと痛む。

 (……ああ、洞窟……)

 保健室に運ばれたことは覚えているのに、いつの間に眠っていたんだろう。
 頭を抱えてゆっくりと上半身を起こすと、隣のベッドに東間が寝転がっていた。

 「よぉ、起きたか」
 「……東間、大丈夫か?」
 「なんとかな。祐くん、無茶しすぎや」

 頬にはガーゼが貼られていて、頭や手に包帯を巻いている。俺よりずっとひどいケガを負っている。士稀に言われた言葉が頭を過った。

 (俺のせいだ)

 「……っ、お前のほうがひどいケガしてんじゃん……ごめん」

 東間は身体を起こして、なんでもないように笑う。

 「あとで医療費請求するから、頼むで~」
 「はぁ? なに言ってんだよ!? 金なんかねぇよ!」
 「ははっ、そんだけ言い返せるんやったら、大丈夫やな」

 いつもとかわらないやり取りに、少しだけ安心する。
 不意に、カーテンがシャッと開いた。

 「はいはい、安静にしててね~」

 白衣を着たやよい先生が、カルテを片手に近づいてきた。

 「気分はどう?」
 「身体だるいっす」

 ちょっと診せてね、と言って俺の額に手を当てた。

 「……さっき、ケンカしてたでしょ?」
 
 今度は、手首に触れて脈を計っている。

 「あぁ……」

 言葉に詰まる。思い出したらまた腹が立ってきた。

 「別に……あいつが、冷たすぎるんだよ」
 「士稀くん?」
 「正論ばっかりぶつけてきてさ。ムカついて……」

 吐き捨てるように言うと、やよい先生はふっと小さく笑った。

 「あの子、不器用なのよね」
 「あ……うん」

 今までの士稀の言動を振り返り、小さくうなずいた。

 「心当たりありそうね」

 やよい先生はクスッと笑いながら、カルテに素早く記入していく。

 「あの子ーー士稀くんね、霊力があることで、ご両親とうまくいってなくてね」
 
 話しながら俺に体温計を手渡す。俺はそれを受け取り、脇に差した。

 「おばあさんに育てられたの。そのおばあさんも、去年亡くなってしまって」

 (そうだったんだ。全然知らなかった)

 胸の奥が、ちくりと痛む。

 「今、居場所がないって思ってるのかもしれないわね」
 「それでずっと、一人でいいとか言ってたのか」

 ピピピッと電子音が鳴り、脇から体温計を引き抜く。36.5度。

 「熱はないわね。しばらくゆっくり休みなさい」

 やよい先生は、シャッとカーテンを閉めた。
 隣で東間が、静かに天井を見つめている。

 「親とうまくいってなくて、その上ばあちゃんまで……きついよな」
 「せやな……」
 「でもさ~ムカつくんだよな~~」

 どうすりゃいいんだよ、と頭を掻いていると東間がフッ、と笑った。

 「言えばええんちゃう? 正論ばっか言いやがって腹立つんじゃコラー! なめんなよ! しばくぞ!! って」

 さっきまで穏やかだったのに急に口調が荒くなって、俺は目が点になった。

 「……いや、そこまではーーっつか、怖いんだけど」
 「あ、つい本音が出てしもうた」

 (本音かよ、ますます怖いんですけど)

 「まぁ、ケンカしてきたらええやん。これもコミュニケーションや」
 「だから、ケンカしたくないんだってば!」

 困っている俺をみて、おもしろそうに笑っている東間。

 (いじわるだ……)