おれは“祓えない退魔師”

 来た道を、全力で引き返す。息が苦しくて足がもつれそうになる。それでも止まらない。止まれない。

 (間に合え……!!)

 視界の奥に、ぼやぁと光が見えた。士稀の指先ライトが消えかかっている。そのすぐそばで――

 「やめて……来ないで……っ」

 伊都の怯える声がした。

 「伊都!!」

 叫びながら駆け寄る。その身体に、黒い影がまとわりついていた。糸のように絡みつき、じわじわと侵食している。

 「……祐くん……っ」

 助けを求めるように、手が伸びる。だが、その腕がぴたりと止まった。

 「――っ」

 びくん、と身体が跳ねた。ゆっくりと顔が上がる。その目は――もう、伊都のものじゃなかった。

 「……みぃつけた」

 伊都の口から発せられたのは、粘りつくような不気味な声。口元が、いびつに歪む。

 「下がれ!!」

 士稀が前に出て刀を構える。

 「はは……は……」

 伊都の身体に憑りついたなにかが不自然に笑う。

 「この器……弱いなぁ……」

 次の瞬間、伊都の身体が士稀に向かって一直線に突っ込んだ。

 「……っ!」

 士稀はなんとか回避し、また刀を構える。

 (くそ! 伊都の身体には攻撃できない! どうすりゃいいんだ!?)

 手のひらが勝手に熱くなり始めた。身体中を、大量の霊力が巡る。

 「……ほぉ」

 低い声が響く。

 「その力……」

 伊都の身体が俺の方を向いた。ぞわり、と身体の奥が震える。

 (……来る)

 「欲しいなぁ……その身体」

 その瞬間、伊都の身体から黒い影が剥がれた。

 「――っ!」

 伊都がその場に崩れ落ちる。影は、一直線にこちらへ。

 (やばい――!!)

 身体の奥が、じんじんと熱くなる。昨日と同じ感覚。俺はとっさに、影に手のひらを向けた。

 「神代!! やめろ!!」
 「うおおおおお!!」

 手のひらに集まった光が、ばちばちと弾けながら影にまっすぐ放たれる。

 ドンッ!!

 すさまじい轟音の後、洞窟が揺れる。

 煙の向こうで、蜘蛛の身体が大きく削れていた。

 「……やるやん」

 東間が、血を拭いながら笑う。

 「今や! 逃げるで!! こっちや!!」

 士稀が伊都を担ぐ。東間が、来た道とは逆方向に走る。

 「神代、来い!!」

 ハッと我に返った。手のひらが燃えるように熱い。

 「っ、ああ!!」

 全力で走る。奥に小さな穴があり、そこにすべり込んだ。

 「え!?なっ!?」

 そこはウォータースライダー(傾斜した滑走路)のようになっており、吸い込まれるように滑り降りていく。途中、カーブや急な高低差があり、俺は絶叫マシーンに乗った時のように叫びまくってしまった。
 やがて光がみえて、出口だと安心したところで、前を滑っていた士稀の背中に勢いよくぶつかった。

 「ふぎゃっ!」

 そのまま地面に倒れこむ。呼吸が荒い。