おれは“祓えない退魔師”

 次の日の早朝、俺は畳の部屋に来ていた。座禅の修行をするために。
 昨日のようにあぐらをかいて、背筋を伸ばす。

 (頭をからっぽにして、精神統一……)

 目をつむって、ゆったりと呼吸をする。

 (何も考えない、何も考えない、何も考えない、何もーーー)

 「祐くん、祐くんってば!」

 ゆさゆさと肩を揺すられて、目を開けると伊都が顔をのぞきこんでいた。

 「そろそろ行かないと、朝食に間に合わないよ!」
 「え、もうそんな時間? って、もしかして俺、寝てた?」
 「うん、イビキかいてた」
 「うわぁ……」

 (せっかく早く起きたのに、台無しじゃん)

 伊都は、頭を抱えている俺を立たせて、引っ張って食堂まで連れて行ってくれた。

 授業時間がせまっているため、食堂は人がまばらだった。俺たちは急いで朝食を取ってきて席に着く。今朝のメニューは、焼き鮭だった。

 (急いでる時に限って、魚かよ!)

 伊都と必死になって鮭の骨を取っていると、隣に二人組が座ってきた。たぶん、クラスメイトだ。名前はーー覚えていない(入学3日目だからしかたないだろ!)。

 「あ、神代祐!」
 「有名人じゃん!」

 朝から高いテンションで話しかけてくる。

 (ん? 俺って有名人なのか?)

 「あー、はいはい……そんな大したもんじゃねぇって」

 それどこれではない俺は、適当にあしらう。

 「昨日のあれ、すごかったぞ!」
 「結界ぶっ壊しかけたやつだろ?」

 その間も、奴らはぺちゃくちゃと昨日のことを話している。

 「ーーなぁなぁ、二人はなんで退魔師になろうと思ったの?」

 鮭をほぐしていた伊都の手がぴたっと止まる。

 「あ、えっと……」

 助けを求めるように、目を潤ませてじっとこちらを見つめてくる。たぶん、答えたくないんだろう。

 「俺はーー」

 とっさに声を張り上げると、二人の視線は俺に集中した。

 「えっと、母さんが退魔師で、俺も母さんみたいになりたいなって」

 半分本当で、半分はウソ。俺もあまり、人には話したくない。

 「へぇ~! お前の母さん、退魔師なんだ」
 「じゃあさーー」

 カーン、カーン。
 始業の鐘が鳴り、クラスメイト二人は慌てて食堂から出て行った。
 俺と伊都も残りのごはんをかけこんで、急いで教室に向かう。

 「た、たしゅくくん……」

 伊都が口をモゴモゴさせながら声をかけてきた。

 「ありがとう……」

 俺も口の中のものをごくりと飲み込み、少しだけ照れくさくなりながら、伊都の頭をぽんぽん撫でた。