おれは“祓えない退魔師”

 「腹へった~~~」
 
 食堂に入るとおいしそうなにおいがして、腹が大きな音を立てた。人が多くて、かなり混んでいる。疲れ切っている伊都を先に席に座らせて、俺たちは列に並んだ。

食堂のメニューは毎食決まっていて、食堂で働くおばさんが配膳してくれる。俺たちは配膳の列に並び、順番に食事を受け取る。東間は伊都の分も受け取るために、トレーを二つ準備した。

 今日の昼食は、から揚げ定食。味噌汁とサラダ付きで、デザートは大福かオレンジゼリーを選べる。俺は大福、東間(と伊都の分)はオレンジゼリーにした。

 「ここの食堂、たまに変なメニューでるらしいで」
 「変って?」
 「霊的な穢れを祓うスパイス浄化カレー、黒くてどろどろの妖気ラーメン、一瞬だけ幻が見える幻覚ゼリー」
 「どれも胡散臭いな」
 「全部校長オリジナルメニュー」
 「あの校長ならあり得る」
 
 東間と話をしながら伊都が待っている席に戻ると、伊都が誰かと話をしていた。

 (え、マジか!)

 伊都の隣に座っていたのは、銀髪だった。まさかの登場に、驚いて大福を落としそうになった。

 (あれ? こいつ、俺らより後ろにいなかったっけ?)

 確か、授業の後トイレに寄ると言っていたから俺たちの後に食堂に来ると思っていたのに……

 (いつの間に追い越されたんだ? 謎すぎる)

 「士稀くん、来てくれたんやな」
 「陰ノ一のルームメイトがそろったね」

 東間と伊都はうれしそうだけど、俺はちょっとだけムカついた。

 (俺のことは拒否るくせに、東間の誘いには乗るのかよ)

 俺は伊都の向かい側、東間は銀髪の向かい側に座り、みんなで手を合わせた。

 「「「いただきます」」」

 腹がへっていたので茶碗を手に取り、ごはんをかきこんで、から揚げを頬張る。味噌汁で流し込み、最後に大福を一口でパクリ。

 「ごちそーさまでした!」
 「「はやっ!」」

 東間と伊都の二人からツッコミが入る。俺は、腹が満たされたおかげで眠くなってきた。

 「午前の鬼灯先生の授業でさ、”自ずと感じる”って言ってたでしょ? みんな、そういうのわかるの……?」

 サラダのミニトマトをつっつきながら伊都がみんなの顔をうかがう。

 「自分の中の霊力の流れを感じろってことなんちゃうかな? それがつかめたら、流れを早くしたり遅くしたり、たくさん出したり少なく出したり、調節ができるようになるし」

 東間がわかりやすく説明してくれたけど、俺にはその感覚がよくわからない。

 「基本中の基本だ。自分でコントロールできなければ意味がない。こいつみたいに霊力が暴発して自滅する」

 呆れたように息を吐いて俺をみる。

 (いちいち腹立つんだよな、こいつ)

 「しかたねぇだろ。やり方もなんもわかんなかったんだから」
 「それを学ぶためにここに来たんやもんなぁ~」

 つい前のめりになる俺を、東間がどうどうと言ってなだめる。

 「そっかぁ……なんとなくわかった気がする。そういえば、東間くんってなんでそんなに色々詳しいの?」

 伊都は納得したようにうなずいて、今度はオレンジゼリーをスプーンでつっついている。

 「あぁ……実はなーー」

 東間は一拍おいてからみんなを手招きし、内緒話をするように声を小さくした。

 「うん……」
 「俺はーー」
 「うん……」
 「黒の組織に命を狙われとるんや」
 「うん?」

 東間が秘密だというように、人差し指を立てて唇に当てる。伊都は眉を寄せて首をかしげた。

 「つまり、見た目は子ども、頭脳は大人、その正体はーー」
 「バカなこと言ってないで行くぞ。校庭集合だろ」
 「え! ここで終わらないでよ! 続きが気になるんだけど! 士稀くんも気になるよね!?」
 
 伊都は、興奮した様子で隣の銀髪をみる。

 「黒の組織とはなんだ!? なぜおまえは命を狙われている!?」

 (えー! こいつも興奮してんだけど!?)

 東間はみんなに背を向けて、クックックッと肩を揺らしていた。

 (……こいつ、絶対楽しんでるだろ)