こっから先ははじめてだから


「すみませんが、自分たちカップルではありませんので。」

「え?」

「急ぐので失礼します。」


冷たくお兄さんに言い放った、先輩の声。


陽気な太陽の下で暖かかったはずなのに、冷えた空気が身体の芯に響いた。


分かってるよ。先輩が断るのなんて、別に分かってたことだもん。


でも“カップルじゃない”って部分を何度も強調されるとね、やっぱり心が痛くなるんだよ。


カップルじゃないのは本当だけれど、それを理由に断ってほしくなかったなあって。


そうやって思う私はわがままかなあ?


「行こう、爽ちゃん。」


私がお兄さんに軽く頭を下げれば、憂先輩が私の手を強く引いた。

     
引かれる力が強引で、前につんのめりそうになる。


「ま、待って、せんぱいっ」


あっという間に路上へと連れ出されて、狭い道なのに先輩が私の手をつかんだまま。密着するようにして並んで歩く。


何も言わず、速歩きで進む先輩。


ピリピリしたこのムード。…ちょっと、苦手なんです。仕事で急かされてる時みたいな緊張感。


こういう時に、上手く機嫌が取れる女性になれるといいなあ。


「あ、あの、……りっくん。」

「え?なに?」

「あの。ごめんなさい。」

「へ」

「怒ってます、よね?」


晴雲酒造はすでに見えない裏通り。先輩がハッと気づいたように立ち止まる。      

 
左手で口元を抑える先輩。ゆっくりと私を見た。