そのもみじは、ちょうど切れ込みが4つあって、葉が5枚あるから本当に小さな人間の手のようになっていた。
指でつまんで、ひらひらと左右に振ってみせる先輩。私がふふっと吐息で笑い、左右に揺れるもみじに見惚れていれば。
先輩がもみじで私を釣りながら、左手で私の髪を後ろに流していく。空気に触れる耳元に、吐息混じりの微かな声が響いた。
「俺のことも、そろそろ名前で呼んでくれへん?」
「ふぇッ」
「“憂先輩”言われんのも好きやけど、二人ん時は名前がええなあ」
古い葉っぱの香りが秋風に運ばれて、私の意識も一緒に飛ばされそう。
耳が、鼓膜がびくびくしちゃう。先輩の色香をはらんだ声色が、ぎゅぎゅうっと私の中の何かをつかんだ。
「な、なまえ、ですか?」
「もしかして、覚えてへん?」
「そそそんなわけないです!り、李月《りつき》さんです!」
「“李月さん?”ちょっとお固いなあ。」
「ええ!……じゃ、じゃあ、李《り》さん?」
「ぶふっ。中国のお人やん。」
吹き出す先輩。かわいい、笑顔だなあ。
この先輩が他の人に知られれば、今よりもっとずっとモテるんだろうなあ。
あんなに怖いと思っていた男の人が、こんなにも愛おしいと思えるのは先輩がかわいいから?
ドクドクと、ドキドキよりも重く響く心臓。早く“好き”って認めちゃえばいいよ、って私に語りかけてくるみたい。



