こっから先ははじめてだから


「彼女はいませんが、かわいい後輩はいるので。」


そのはっきりと響き渡る言葉で、色めき立っていた酒蔵に静寂が訪れる。


しーん


皆思考が、お米と共に発酵途中。


「ここは歴史ある酒蔵です。観光施設じゃありません。静かに見学したいので失礼します。」


すぱーーんっと切った憂先輩の清々しいお言葉。なかなか発酵が終わらない彼女たちの目は点点になっていて、ちょっとだけ可愛い。


そして先輩が、私の手をそっと繋いで、蕩けるような笑顔でささやいた。


「お土産、ホテルで飲もな。」   
      

さっき買ったお酒と奈良漬けの入った袋をみせて、同意を求めてくる先輩。


こくこくと一生懸命首を縦に振った。



「え?あの二人、意味ありげ?」
「不倫旅行とか??」


歯医者さんの方々のささやき声が嫌でも聞こえてきてしまう。


先輩が“ホテル”なんて言うから!宇宙人が浮気相手だと思われちゃってるじゃないですか。


愛想もない、嘘もつけない、まっすぐ真面目な憂先輩。でも自分だけには甘いという事実に、破顔が止まらない刈谷。   


4本指で握られていた手が、すり、と、指を絡ませるように握り変えられた。私の指と指の間に入り込む先輩の指。


うぬぼれかけている宇宙人でも、本命になることはできますか?