武蔵鶴酒造にはすでに団体予約のお客さんが来ていたせいか、人だかりができている。
酒蔵の見学は団体予約しか受け付けていないということで、ここではお土産を買っていくだけの予定だった。
荷物が重くなるため、300ミリリットル瓶の『さけ武蔵《むさし》 吟醸酒《ぎんじょうしゅ》』と、有名な奈良漬けを購入しようと、先輩がお会計をしている時だった。
「可愛いカップルさんですね!お二人でお越しですか?」
お会計をしてくれている気のいい店主さんにカップルだと言われて、どうすればいいの?と熱い顔で先輩を見上げる。
「いえ、ただの会社の後輩です。」
はっきりと否定した先輩。熱かった自分の顔があっという間に冷めていく。
そうですよ?私、ただの後輩ですよ?そんなことは分かっています。
でも先輩、せっかく気のいい店主さんなのに、めちゃめちゃ冷めた声なんですもん。
私と他の社員に対する態度にギャップがありすぎるのは知っていたけれど、さすがに歴史ある名高い酒蔵の店主さんには優しく返してもいんじゃないかなあ。
私が店主さんに、困ったように笑いかければ、店主さんは心よく笑顔で返してくれた。



