「え?え??……刈谷さんと憂さんってどんな関係なの??!」
憂先輩が経理部から出て行って、場が凍りついたと思ったら。
2分で解凍。
白河さんが、私の目の前まで距離を詰めた。
「ええと、数学オリンピック仲間?ですかね。」
「す、数学オリンピック??」
「はい。日本数学オリンピックで銅賞を獲って、国際数学オリンピックまでは行けなかった仲間です。」
「へ、へえー……」
キョトンとまばたきを繰り返す白河さん。
あまり無自覚に恋愛沙汰な噂が蔓延しても困るから、どーんと数学オリンピック様にお任せしておいた。
だって、本当のことなんやもん。本当にそれだけ。
ねえー、憂先輩ー。
「ウソ!あれ、総務の憂さんじゃない?!」
「水樹さんて憂派なんです?」
「いやー。私は断然朋政派だなあ〜。てかあの人飲み会嫌いじゃなかった?なんで来てるの?」
「……さあ。」
和風庭園のある老舗料理店。
宴会用の広間で、お座敷に座る同じ経理部所属の水樹課長代理♀38歳と白河さんが、うちの会社の2大スパダリ巨頭を並べた。
西の憂、東の朋政と呼ばれるうちの会社のスパダリツートップ。
垂れ目のたぬき顔、甘いマスクの関西弁を操る憂先輩は、いつもどこか冷めた目で人々を見ている。
人に厳しいというよりも、どこか人に境界線を引いてしまうような機械的な冷たさがあるのだ。



