いたたまれない視線なのに、憂先輩の声が耳元で響くから、私の心臓は温まってしまう。
小さい身体がすっぽり、先輩の大きな手のひらに収まっている感覚。これが俗にいう親指姫の気持ちかもしれない。
親指に姫をつけるだけで愛おしくなる。昔の人のタイトルセンスを尊敬するな。
肩に乗っていた先輩の頭がふわりと浮いて、先輩の髪の毛がさらりと私の頬を撫でる。
やっと解放してくれた先輩。心が安心とちょっぴりの心残りを感じているから憂李月の温度が憎い。
「六神君には、れっきとした彼女がいてですね。超有名なストーリーなんですよ?」
「さっき六神君から事情聞いた。でもそのストーリー、ほんまに有名?俺、知らんかってん。」
そりゃあ先輩、他人に興味ないだろうし。
私がそのままホームを降りようとれば、また先輩に腕をつかまれた。
「爽ちゃんち、こっから遠いんやろ?」
「あ、はい。小田原の方で、」
「遠すぎん?今日は、俺んち来て休み。」
「へっ?」
「俺んち、こっから1、2、3駅やから。そんな青白い顔で遠方はるばる帰されへん。」
「……いえッ、…さすがに、家は!」
「なんで?」
出た!秘技、憂李月堕とし。憂先輩が私の顔を覗き込んできた。
どうしよう。
私、男の人の家なんて始めてやし。
アラサーの男女について考えてみれば、これって、大人な関係も視野に入れて誘いをOKしなさいよってことなのかな。



