「ありがとうね、むがみん。わたし、本当に大丈夫だから!」
「え?でもさっきふらついてたし、」
「だいじょぶだいじょぶ!鈍くさいだけだから。」
「……知ってるけど。」
憂先輩に、適当に愛想笑いを浮かべて、「失礼します。」と言って頭を下げた。
先輩は何も言わず……。
あんなに優しかった先輩。どうしちゃったんだろう。
逃げるようにして帰っちゃってごめんなさい。男の人に睨まれるの、やっぱり刈谷にはまだ難しいや。
高校生の頃、男の子に椅子を蹴られて睨まれたのが、ずっとトラウマなんだよね……。
私が数学でその子の首位を奪っちゃって。相当悔しかったんだと思う。
あの時の私を蔑むような瞳。無音な圧力ほど怖いものってないんだ。
どうしよう。憂先輩に睨まれたこと、そんなに怖かったのかな。
急に目に涙が溜まり始めて、疲れてるせいか周りがどんどんぼやけていく。
怖いの?怖かったの?本当はね、悲しかったの。
刈谷には優しいと思っていた、関西弁のふわりと柔らかい憂先輩。
いきなりあんな風に突き放されちゃって、悲しくて仕方がない。
一言でいいから、先輩の声が欲しかったな。
涙がこぼれないよう頭を振って前に進めば、どこかの知らないおじさんと肩がぶつかった。



