こっから先ははじめてだから


「確か、横浜支部の、」

「あ。はい、横浜支部国際営業部三課の六神です。」

「本部総務課の、憂です。」

「はい。存じています。」


普段の憂先輩なら、同じ会社の人間がいても自分から話しかけることなんてないはず。

だって社内ですれ違っても会釈すらされないって、さっきも経理部長が大声で嫌味言ってたくらいだし。

 
「で、刈谷さんをどうするつもりですか。」

「は?いや、こいつ、体調悪いみたいで。こいつんちこっから2時間近くかかるんですよ。うちが近いから、とりあえずうちに連れて帰ろうかなと」

「は?」

「……え?」

「……」
 

憂先輩の後ろにはタクシーの列ができていて、週末でもまだ早い時間のせいかお客さんは少ない。

タクシーの運転手さんも大変だろうなあ。そんなことを思っていれば、憂先輩がじっと見てくる視線が刈谷の視界に入り込む。

私がタクシーから憂先輩に視線を移せば、いつも私に向ける優しい先輩の目じゃない。

細目で睨まれていて、心臓も喉の奥につかえるなにかも、全部がぜんぶ縮こまる。

蔑むような先輩のドライな瞳。

怖くて視線を外して。それから緩んだむがみんの手も外した。