こっから先ははじめてだから


「統計の項目をもっと広い視野で考えてみて。顧客ニーズを意識した、具体的な統計表を作れって僕は言っているんだよ。」   
 
「は、はい。すみません!」


強めな課長の口調に、声を震わせる女性。それでも立ち姿はシャンとしている綺麗な黒髪の女性。営業事務の人かなあ?


「地方支部に比べて本部は輸出入の品目数も増えるんだから!こういった統計表は具体的且明確に作成するのが基本なんだよ、ねえ刈谷さん!」

「は……うぇっ?!わ、わたしですか?!」


階段を降りようとしたところで、不意に課長に名指しされる刈谷。ちょっと、なんでやねん。


「刈谷さんって統計表作るの得意じゃなかった?」

「……得意?ま、まあ嫌いではないですけれど、」

「なら小窪《こくぼ》に教えてやって。頼んだよ!刈谷さん!」

「はいぃ?!」

「僕は今から合同研修会の準備で忙しいから!あ、こないだのお礼なら春風から貰ったしいらないよ?じゃあね!」

「……は、はあ。この間はありがとうございました。」


朋政課長が笑顔でピースをして、そのままフロアへと走って行ってしまった。先週は九州に出張だったという課長はとにかく忙しくて仕方がない人だ。


取り残された女性の小窪さんと私は、顔を見合わせて初めましての挨拶を交わす。


聞けば小窪さんは、事務なのではなく営業職なのだそう。今まで地方支部で頑張っていたツキが功を奏し、今回、私と同じタイミングで東京本部に異動となったらしい。