こっから先ははじめてだから


「来期の予算申請、もう財務に回したんだって?さっすが数字の鬼だね刈谷さん!」


経理部課長代理の水樹さんが、すれ違いざまに私の肩を叩いて言った。


「早かったですかね?消耗品の予算、去年よりも1割増で出しておいたんですけれど、」
  
「助かる助かる!だあれがペーパーレスするかってのよ。裏紙なんて、ペンで大きく『あ』って書いて裏紙にしてやるってのよ!ねえ?」


節約しないにしても、わざわざ無駄に『あ』って書くのは面倒な気もします。


お子さんが一人いらっしゃるという水樹さんは、いつも気さくに話しかけてくれる良き上司だ。


このまま出世街道を突き進みたい気持ちはあれど、お子さんのためにせいぜい課長止まりの心構えで定年まで頑張っていきたいと、歓迎会で話してくれた。


「ねえ!それよりさ。刈谷さんこの間、朋政課長に呼び出されてたじゃん?」

「あ。ああー……。そうでしたね。」

「刈谷さんって朋政課長と仲いいの?」


爛々と輝かせた目で、食い入るように見つめられる。


水樹さんの眼鏡の奥の眼力は、私のエナジーを奪ってしまうのではないかというくらいに強力だ。


ごめんなさい。ご期待には応えられないんです。