いつもと同じ、他愛ない話で皆箸を口に運ぶ。
明彦さんは笑みを浮かべて特に口を開かず箸を動かしながら聞いている。
「はーちゃん...トイレ、」
向かいに座る千代がもじもじと小さな声で言った。
冷たい廊下を一人歩くのが怖かったのだろう──千代は夜のトイレが、つい最近までだめだった。
またぶり返したな、と思い
皆は談笑を続けているから、2人でそっと席を外し廊下に出た。
いつもは開け放し前で待ってやるが、客がいるからだろう。
この狭い手洗いに、千代は入ってと手招きし鍵を閉めた。
「はーちゃん...千代あの人やだ......」
鍵を閉めて小さな声で零された言葉に、「どうして?」と思わず声を大きくしてしまった。
慌てて口を抑え「ごめん」と抱き締める。
珍しいのだ、口数の少ない千代が誰かに対して嫌悪感を示すのは。
「なんか、すごい近づかれて、いっぱい訊かれて...いや」
そして背を向けトイレの水を流し、私の手を引いて扉を開けたのだった。
宮下明彦に違和感を覚えたのは、夕食が終わってから。
紗和は麦を寝かしつけに、海吏と皿洗いをしていたとき。
私は思っていたのだ。
お前さ、普通手伝わないの...?って。
そしてそっとテーブルの方を覗くと。
峰子と千代と話しているではないか、それも片手にはスマホ、もう一方では峰子の小さな脚を触りながら。
その瞬間、心臓がどくりと音を立て、私の脳はパニックに陥った。
どうしよう、どうしよう。
みね、千代。
どうしよう、どうしよう
ここで2年間の全てが終わったら
どうしよう


