何駅か電車に揺られたのち、また2人並んで歩く。
お互い忙しいこともあり、肌を重ねることはあまりない。
向こうから激しく求められることも、此方から求めることもなかった。
そういう雰囲気だと思って、何度かシたことがあるだけだ。
そういう出会いを求めていたわけじゃないし、なんというか...私は。
仕事と家の往復以外の存在を求めていたから、...──
「もうすぐだね」
明彦さんは此方をみて微笑んだ。
初め、プロフィールには無難に趣味を書いていたけれど。
趣味が合う数人と、話すようになって何度かお会いして、家族の話をすると。
気まずそうに自然と離れていくか、連絡が来なくなることばかりで。
宣言と決意を記入することにした。
それがこちら。
【求める条件:自分の子供以外も愛せる、仕事に理解のある人、のみ。それ以外はお断り!!】
水商売をしているバツイチのような書きぶりだが、期待して傷つくよりマシだった。
そんな中、恐る恐る声をかけてくれたのが、宮下明彦だったのだ。
そして歩を緩めた、小さなアパート。
但し防音には拘っている我が家だ。
「ちょっと待って、鍵開けるから」
鞄をガサゴソやって、鍵穴に差し込む。
少し扉を開くだけで、中の騒がしさが漏れてきた。
何だか怖くなって咄嗟に掛けていた手を引いてしまった。
「大丈夫?...僕が開けようか?」
いつも帰っている家だけど、毎日会っている兄弟たちだけど。
こんな自分を見せるのは初めてかもしれない。
「...ううん、大丈夫よ。......いらっしゃい、我が家へ」
ドアの隙間から漏れた騒がしさに襲われた私たちは、近所迷惑を気にして急いで中へ入った。


