────カチッ...ガチャン。
古いアパートの一室は静まり返っていた。
よかった、みんなちゃんと寝たんだ。
...私を待って、寝ないで起きているかもなんて。
そんなことあるはずないのにね。
このアパートは、父が蒸発する前、私たちに残した最後の財産だ。
ずっと賃貸だと思い込んでいたけど、いつまでも取り立ては来ないわ、引き落としもないわで問い合わせてみたら、購入していたとのことだった。
こんな辛気臭いアパートなんかより学資保険入っててよ、と思ったのはいつのことだろう。
...本当にいつのことだろう。
寝室でお腹を出してるメンバーに布団をかけ直して、...午前6時すべきことは山積みだ。
とりあえず朝ごはんをと、鍋を火にかけた。
そして洗濯物は、案の定。
素晴らしい造形に積み上がっていた。
いやいや、鍵を締めてくれたのは千代だろうか。
偉いよちーちゃん、10歳なのに、偉すぎるよ。
色物の第一回戦の洗濯ボタンを押したら、次は身支度だ。
新しい服に袖を通すと、気怠い頭に少しばかり喝が入ったようだ。
鍋が沸騰したので、火を止めてからまた洗面台へ戻った。
───ササザキヒロトは苦い初恋相手。
高校時代、3年間同じクラスで、それで...。
歯磨きのとき、無駄な考え事をするのは私だけだろうか。
もう金輪際会わないと思っていた。
都心で、人だけは数え切れないほどあるのだから。
顔を洗って...白んだ顔にやっぱり目が少し腫れてるな。
歯ブラシを持つ自分の手が止まっているのに気づいたけれど、何だか面倒でぼーっと鏡を見つめる。
ほんと、なんだろう。
付き合っていた彼氏はロリコンで、
弟に咎められて逃げ出して、
...よりによって勤務先に逃げて。
そしてトドメに───...
...宏都に再会してしまって。


