……
…………。
……ーー…………っ、……こ、こ……は?
何かにサワッと頬を撫でられて、俺は目を覚ました。
うっすらと瞼を開けると、眩しい光に思わず反射的に目をもう一度閉じた。そして、今度はゆっくりと徐々に瞼を明けていくと……目の前にあるのは緑。
手を動かし握ると、それが草の感触だと分かる。
そう、俺が居たのは原っぱだ。
目の前に見えた緑は草。
俺は原っぱに、うつ伏せで倒れていたのだ。
「……っ?……ッ、……っ!」
上半身を起こし、「ここは何処だ?」と口にしようとした俺は違和感に気付いた。
どれだけ声を発しようとしても、喉から詰まったように言葉が出てこない。
っ、……声が、出せない?
思わず自分の喉元を押さえたと同時に、俺はまたしても違和感に気付いた。
その違和感に辺りを見渡し、近くに川があるのを発見すると、俺は立ち上がってそちらに歩みを進めた。
ーー……っ、……やっぱり。
覗き込んだ水面に映る自分を見て、心の中でそう呟いた。
水面に映る俺は、"俺だけど俺ではない"。
俺よりも遥かに長い白金の髪。俺よりも白い肌。俺よりも切れ長の両目の中の瞳は、俺よりも不思議に光り輝く白金色。
司祭のローブのような白い衣服を身に纏ったその姿は、俺の身体を乗っ取ろうとしているあの天使の姿そのものだった。
つまり、今の俺は天使ーー。
その事態に一瞬驚きながらも、これまで自分が体験して来た数々の不思議な出来事のお陰なのか、過度に動揺する事はなかった。
まさにこれが天使の言っていた『その身を持って体験するがいい』と言う意味なのだろう、とすんなり受け入れる事が出来たんだ。
きっと普通の人間だったら慌てふためく事態が、自分にとっては何の不思議でもない日常になっていく事。
俺は昔は、それが嫌で怖かった。
何度も、みんなと同じなんの能力も持たない人間だったら良かったのに、と思った。
ーーけど、今は違う。



