片翼を君にあげる④

【アッシュトゥーナ家】

「お疲れ様でした、レノアーノ様。本日もよく頑張りましたね」

「レベッカ、ありがとう」

リハビリを終えた私を迎えに来てくれたレベッカが、そっと優しく車椅子に乗せてくれる。
長い闘病生活で寝たきりだった私は、すっかり筋肉が固くなって衰えてしまって……。最初はちょっとした動作ですらままならなくて大変だった。
そんな訳で、今はリハビリ生活の毎日。少しでも早く元の生活に戻りたいけど、あまり頑張り過ぎるのもダメだ、って医師(せんせい)からも言われちゃって……正直もどかしい日々を送っている。

「早く、自分の足で歩きたいわ」

「まだご無理をなさってはいけません。
汗をおかきになったでしょう?湯殿の準備が整っております。このままお風呂場へ向かってよろしいですか?」

「ええ、お願い」

リハビリをしていた部屋からお風呂場までの長い廊下を、そんな風に会話しながらレベッカに車椅子を押してもらいながら移動していた時だった。

「あ!姉上ー!!」

背後から廊下をバタバタと走る大きな音と共に聞こえた元気いっぱいに私を呼ぶ声。弟のレオだ。
その様子に溜め息が出る。レオは今年11歳。まだまだ子供だと甘やかしてあげたい気持ちもあるが、将来アッシュトゥーナ家を継ぐ者としての自覚をそろそろ持たせなくてはいけない。

「レオ、騒がしいわよ。廊下を走っちゃダメだと何度も言っているでしょう?」

複雑な姉心を胸にレオがすぐ近くに止まった気配がすると、私は顔だけ振り向いて気を引き締めて言った。すると……。

「悪い悪い。俺が来たから、レオ君はレノアを呼びに行ってくれただけなんだよ」

!!ーーッ……、え?

その声にハッとして胸がドキンッと高鳴る。
車椅子に座っている私の目線は、レオと近い。私の目に映るレオの頭に、そっと手を触れる声の人物。私はゆっくり視線を上に……その人に目を向けた。

「怒らないでやって?な、レノア」

「っ〜〜〜!!ツ、ツ、……ツバサ?!」

目が合うと同時に少し首を傾けながら微笑む愛おしい人の姿に、私はまるで朝寝坊した時のように驚いて動揺した。