片翼を君にあげる④


俺の能力(ちから)は、血縁には効きにくい。
特に近い血縁である兄貴の心を詠む事は難しい。
兄貴の口にした言葉がどこまでの本音なのか、俺の能力(ちから)では分からなかった。

……でも、そんな能力(ちから)は必要ない。
だって俺には、兄貴と兄弟として過ごしてきた確かな時間があるから……。

「「塞ぎ込む母さんを見なくなかった」んじゃなくて、「見てられなかった」んだろ?」

俺は知ってる。兄貴の優しさを。
昔、飼っていた猫達が亡くなった時も、兄貴は誰よりも辛そうにしていた。
誰よりも感受性が強くて、傷付きやすいんだ。

でも、そんな自分を"長男だから"って想いで、いつも封じ込めてた。

「「逃げた」んじゃないよ。兄貴は、自分がその時に1番出来る人生(みち)を選んだだけだ。
ただの逃げ道なら、父さんが遺した会社を維持し続ける事なんて出来ない」

そうだ。
兄貴はいつも、姉貴と俺の間でバランスを取るように空気を読んでいた。そんな兄貴を、俺は卑怯だとも臆病者だとも思わない。

兄貴が、俺の兄貴で本当に良かったーー。

「全部、兄貴の優しさ。それが兄貴の持ってる、父さんと母さんから受け継いだ最高で最強の能力(ちから)だろ?」

そう言って微笑った俺を暫く顔を歪ませたまま見つめていた兄貴だったけど……。

「お前が弟でーー……。
お前と兄弟で良かったよ」

俺を抱き締めて、そう言ってくれた。
表情は見えなかったけど、きっと俺達は似たような表情で微笑っていたと思う。


俺も、ごめんな兄貴。
不謹慎かも知れないけど、嬉しかったんだ。
だって、兄貴が心の内を話してくれたのは、ようやく俺達は対等になれたって事だろ?

これからは弟だからとか、歳下だから、とか気にしない。
1人の男として兄貴と歩む事が出来るーー。

「結婚式の日取りが決まったらすぐ知らせろよ。絶対に、どんな仕事があっても出席するからな……!」

そう言って、兄貴は自分の居場所へと帰って行った。

……
…………。

そして俺は……。
ようやく、ある人物に会う決心がついて、その場所へと向かった。

仕事あがりを待ち伏せて、俺は"彼"に声をかける。

「久し振りだな。ライ」

「!……ツバサ」

ライに会うのは、ランの葬儀の日以来だった。

……
…………。