ようやく、触れ合えたーー。
伝えたい事はたくさんあった。
病で目覚めた時、私は何故か彼に関する記憶を全て失っていたのだ。
「っ……ごめ……な、さぃ……ッ」
病気で生死を彷徨ったからかも知れない。
目覚めた私は頭にモヤがかかったみたいに暫くボーっとしていて……。そんな私の傍にずっと付いて語り掛けてくれたのが幼馴染みの聖だった。
「ごめっ……なさ!ッ……私っ……わた、しッ」
両親や村の人達から、私が病で目覚めない日々も聖がずっと心配して傍に居てくれた事を聞いて……。そんな聖に自分に出来る事が何かあれば、と思って、求婚を受け入れた。
ーー……でも。
本当は、私はっ……。
私が、愛していたのはーー……!!
「ーーいい。何も言わずとも、いい」
涙で言葉が詰まって上手く言えない私を抱き締めて、彼が言った。
「其方の気持ちが伝わってくる。
こうして触れ合えた。もう、それだけでよい」
そう言った彼の背中に手を回して、もう決して離れないと誓うように私はギュッと力を込めようとした。
けど、それは叶わなかった。
力を込めた手には抱き締めている手応えはなく、彼の身体がキラキラと輝き始める。
ハッとして見上げると、私を優しい笑顔で見下ろす彼が少しずつ透明になっていくのが分かった。
「最期に、この心を取り戻せて良かった……」
彼の呟きに、私は首を横に振った。
最期ーー。
やっと逢えたのに、「嫌だ!!」と叫びたかった。
でも、そんな私の唇にそっと指を添えるようにして、彼が言った。
「今度は、忘れるな。諦めるな。
心から愛する者と、想い、想われ、共に生きる。そんな、幸せな人生を生きてくれ」
お前には、待っている者がいるーー……。
彼のその囁きに、私の中に広がったのはツバサの事。
そしたらそれと同時に、彼が微笑んだまま頷いた。



