天使は動かなかった。
俺は、自ら足を進めると、そっと天使の身体を抱き締めた。
もう、怖くなんてないーー。
俺はずっと、普通の人とは違う自分が怖かった。
だから天使の事も、怖かった。
でも、今なら……。様々な出来事の中で、たくさんの人の感情に触れて、俺は自分を受け入れる事が出来るようになったんだ。
だから、天使の事も受け入れられるーー。
天使は、昔の俺だ。
レノアに会えなくなって……。それを仕方ない、と思いながらも、心の片隅で忘れられたくない、と……。
いや、ずっと自分だけを愛していてほしいと願っていた俺と同じ。
俺は色んな人に"それではダメだ"と教えられて抗う事が出来たけれど、あのまま何もせずレノアとサリウス王子が結婚する姿を見ていたら……天使と同じようになっていたかも知れないんだ。
ーー今度は、俺が助ける。
他の人が俺に色んな事を気付かせてくれたように。
俺は天使に、大事な事を……。大事な気持ちを、気付かせてやりたいと思った。
だから、俺は天使を自らの中に受け入れ、連れて行く。
過去をやり直す事は出来ないけど、天使がずっと目を背けて来た過去を一緒に視る事は出来るから……、……。
……
…………俺は、天使と再び過去へと向かった。
俺の中に入った天使は、黙って大人しくしていた。
そんな天使を俺が連れて来たのは、"天使が琴李を助けた事で、天界に閉じ込められ、行く事が出来なかった約1年間の人間界"だ。
天使が琴李を助けた後、どうしていたのか……。
琴李が自分を病から救ったのが天使だと思わないのは仕方ないとして、本当に綺麗さっぱり忘れてしまい、気に掛けていた日々はなかったのか……。
琴李にとって、天使はどんな存在だったのかーー……。
それを確かめるのは怖い事だが、同時に、知りたい事でもあった筈だった。
俺が天使ならば、知りたいから……。天使も、そうじゃないか?って、思ったんだ。



