「この本は、あんたが本当に望んだ未来。本当はこの本のように、彼女と結ばれたかったんだ」

忘れられたくなかったーー。

そんなのは上部の気持ちだ。
本当の本当は、もっと欲深くて……。彼女に愛され、結ばれて、幸せに暮らしたかったんだ。

だが、それは叶わなかった。
今更その過去を変える能力(ちから)なんて、俺も……誰も持ってはいない。

《そんなくだらぬ本!!気休めにもならんわッ……!!!!!》

天使はそう叫ぶと、俺の手から本をはたき落とした。

《お前だって私と同じ状況となれば、綺麗なままでなどいられる筈がない……ッ!!!》

今まで余裕に溢れた不気味にも思える笑顔しか見せてこなかったのに、今の天使はもがき苦しんでいるような表情だった。

その表情を見たら、分かった気がしたんだ。
天使が何故、俺の身体を器に欲しかったのか……。
最初は、俺の身体を使って復讐しようとしているのかと思ってた。

けど、違う。
天使が俺を求め、呼んでいたのはーー……。

「……来いよ」

《……。何だと?》

「俺は、あんたを受け入れる」

《……》

「俺の中に、入って来いよ」

目の前で両手を広げてそう言う俺に、天使は目を見開いて驚いていた。

その表情からも感じられる。
もし天使が、本当に復讐の為に俺の身体が欲しいのだとしたら……。憎しみでドロドロの真っ黒い感情に支配されているのならば、躊躇などせずに俺の身体に飛び込んでくる筈だった。
いや、俺の許可などなしに奪う事だって出来た筈なんだ。

それなのに、天使はそうはしなかった。
だから俺は、自分が今の天使にしてやれる精一杯を贈りたかった。

素直になれず。
強がってばかり。
「助けて」とも言えない。

天使は、ただ、恋をしただけなんだ。
ただ、愛しただけなんだ。
それ故に、叶わなかった自分の想いを、どう処理していいのか分からなかっただけなんだ。