何度も何度も人間界へ行き。
人間と交流し。
更に人間相手に能力を使い、度重なる掟を破った天使の罪は重かった。
一族から罵られ、天界を追放され……。薄暗い、光も色もない場所へと堕とされた。
だから、呪いをかけた。
彼女の血族が、愛する者とは決して幸せにはなれぬよう呪いを……。
愛は狂気へと変わった。
大切に想う気持ちが強過ぎた故、赦せない気持ちも同等に強かった。
これが、天使の過去だった。
……
…………。
……《私は、忘れられたくなかった》
過去から、今の天使の居る灰色の空間に戻って来た。
うつ伏せに倒れていた身体をゆっくり起こすと、俺は自分の瞳から溢れ、頬を流れた涙を手の甲で拭う。
そんな俺の前に姿を現わした天使が、言った。
《琴李が私に対して、特別な想いがなかったのは仕方ない。
……けど、まるで何も……っ。私の存在など……私と過ごした時間などッ、何もなかったかのようにした事が赦せぬっ!!》
辛かっただろう、と。
悲しかったんだろう、と。
天使になり、実際の過去を体験した俺には、誰よりもその気持ちが解っていた。
ーー……けど。
「嘘つけよ」
俺は、俺だ。
天使では、ない。
「忘れられたくなかった?そんなのは嘘だ」
だから、俺は言う。素直な気持ちを……。
「あんたは、愛されたかったんだろ?」
天使が今でも口に出来ない気持ちを、俺は言う。
「本当は彼女に愛してほしくて、仕方がなかった。
会えなくなった間も想い、待っていてほしかった。
彼女と結ばれるのは、自分であってほしかったんだろ?」
《……。煩い……黙れ》
低い、小さな声で、天使が言う。
俺は、本棚から投げ捨てられた一冊の本を拾った。著者Lion、俺の祖父が書いた天使の本。
それに書かれていた話は、天使と人間の女性が結ばれて幸せに暮らすハッピーエンド。
祖父が、天使の想いに気付いて書いた……。せめて物語りの中でだけでも、幸せにしてあげたい、と言う想いが詰まった本だ。



