片翼を君にあげる④


()生命力()を、君にあげるーー。

天使の翼に織り重なる羽根には、不思議な能力(ちから)が宿っていた。
その能力(ちから)天使達(仲間)以外に使う事を、硬く禁じられている事は解っていた。

でも、天使は……。
自らの生命力(片翼)を、琴李(ことり)に分け与えて彼女の命を救ってしまったーー……。


おそらく、今の人間界で俺や父さんの能力(ちから)が同じ血を持つ者に効きにくいのは、この時に天使が冒した過ちが原因だと思われる。
人間との混血である半端な天使の血は、仲間とは認められない(赦されない)という事であろう。

天使が人間と関わり。
人間に能力(ちから)を使い。
また、消える筈だった命を救って運命を変えてしまった。

……
…………。

片翼を失い、能力(ちから)が欠けた天使には、天界に連れ戻される事に抗う術はなかった。
神聖な空気に包まれた天界でその能力(ちから)を使うのと、全くの別世界である人間界で能力(ちから)を使うのとでは、身体と心に受ける負担は格段に違い……。
天使の身体と心がある程度癒え、意識を取り戻したのは、人間の時間で言えば約一年程経ってからの事だった。

どれだけ時が過ぎようとも、目覚めた天使がまっさきに想ったのは当然琴李(ことり)の事ーー。

自らの能力(ちから)を分け与え、命を救った直後に倒れ、意識を失って天界に連れ戻された自分には、あの後どうなったのか分からない。
琴李(ことり)を本当に救う事が出来、彼女が今、生きているのかさえ分からなかった。

彼女に、会いたいーー……っ。

一度罪を冒し、連れ戻された天使が、再び人間界へ行く事が何を意味するか……解っていた。

ただ会いたい。
君に会いたい。
もう一度会って、歌声を聴かせて?
もう一度、微笑んで?

それだけで、良かった筈だった。
必死に止める仲間達を強引に振り切って、天使は再び人間界へ舞い降りると……あの場所へ向かった。
彼女と最初に出逢った、あの場所へ。