私の生命力を、君にあげるーー。
天使の翼に織り重なる羽根には、不思議な能力が宿っていた。
その能力を天使達以外に使う事を、硬く禁じられている事は解っていた。
でも、天使は……。
自らの生命力を、琴李に分け与えて彼女の命を救ってしまったーー……。
おそらく、今の人間界で俺や父さんの能力が同じ血を持つ者に効きにくいのは、この時に天使が冒した過ちが原因だと思われる。
人間との混血である半端な天使の血は、仲間とは認められないという事であろう。
天使が人間と関わり。
人間に能力を使い。
また、消える筈だった命を救って運命を変えてしまった。
……
…………。
片翼を失い、能力が欠けた天使には、天界に連れ戻される事に抗う術はなかった。
神聖な空気に包まれた天界でその能力を使うのと、全くの別世界である人間界で能力を使うのとでは、身体と心に受ける負担は格段に違い……。
天使の身体と心がある程度癒え、意識を取り戻したのは、人間の時間で言えば約一年程経ってからの事だった。
どれだけ時が過ぎようとも、目覚めた天使がまっさきに想ったのは当然琴李の事ーー。
自らの能力を分け与え、命を救った直後に倒れ、意識を失って天界に連れ戻された自分には、あの後どうなったのか分からない。
琴李を本当に救う事が出来、彼女が今、生きているのかさえ分からなかった。
彼女に、会いたいーー……っ。
一度罪を冒し、連れ戻された天使が、再び人間界へ行く事が何を意味するか……解っていた。
ただ会いたい。
君に会いたい。
もう一度会って、歌声を聴かせて?
もう一度、微笑んで?
それだけで、良かった筈だった。
必死に止める仲間達を強引に振り切って、天使は再び人間界へ舞い降りると……あの場所へ向かった。
彼女と最初に出逢った、あの場所へ。



