片翼を君にあげる④


琴李(レノア)ーー……ッ!!

天使の心と同化したかのように、俺は彼女の傍に駆け寄るとその冷たい手を握り締めた。
すると、心の中にブワッと一気に流れ込むように自分の知らない彼女の情報が入ってくる。

いつもの場所に来なかったあの日の朝から、彼女が体調を崩した事。
ただの風邪ではなく、幼少期より患っていた病が再発した事。
その病は、起き上がれなくなった彼女を徐々に徐々に蝕んでいき……今の人間の医術では、決して助ける事は出来ない事。

突き付けられる"彼女の死"の現実に、悲しい、辛い、と自分が自覚する前に涙が溢れていた。
天使が初めて直面した、命が消える事への感情。
天使は動揺していた。これまで自分が感じた事がなかった"悲しみ"に、ただただどうしようも出来ずに……。
今まで自分が生きてきた世界は思い通りにならない事なんて僅かしかなくて、大体の事は自分の能力(ちから)や周りの能力(ちから)でどうにでも出来た。

それ、なのにーー……っ。

溢れた涙が流れ、握り締めていた手にポタリッと落ちた。
するとその直後、彼女が薄っすらと目を開ける。彼女は力ない瞳に俺を映すと、今出来る精一杯の笑顔を見せてこう言った。

「来て……くれて、嬉し……ぃ。……ご……め、んね……?」

そんな彼女に、俺は涙を流す事しか出来ない。
言葉を返す事すら出来ず、ただ首を横に振るしか出来ない。

何も、出来ないーー……。

謝る事ない。
ずっと会いたかった。
そう、ただ、それだけ……。
会いたかったから来たんだ。

()は、お前の事が好きなんだーー。

ーー……そう。
「好き」と言う、たった二文字の言葉(気持ち)すら……言えない。伝えられないのだ。

……
…………だから、…………。

だからせめて、この想いを彼女に贈りたかった。
禁忌(タブー)だと解っていても、自分の出来る能力(こと)で……()は彼女を、救いたかった。

完全に同化していた天使と俺。
とめどなく溢れ出す想いを抑える事なんて、出来る筈がなかった。