誰もいない・・・

人気のない町。

彼は雪に覆われた広場らしき場所につくと、首をカックンと後ろに倒した。


「なんて、デカさだ・・・!」


どこまで仰いでもツリーの天辺が見えない。

多分相当離れなければ、一番上の星なんておがめないだろう。

とりあえず町の中心らしい広場に来てみたものの、どうしていいやら分からず立ち尽くしていた。

時折吹く強い風が、コートを容赦なく突き抜けてくる。

風の強さに耐え切れず一歩下がった瞬間、パキパキッと凍った雪の地面が鳴った。


寒い!


彼はガタガタ震えた。

冬は1番苦手なのだ。

白い肌が温度を失って、だんだん妙な色に変わっていく。


寒い・・・!死にそうに寒い!


「おいおい、アンタ、まだそんな格好なのかよ!さては新参者だな?」


突然。

甲高い声がした。

後ろを振り返ったが、誰もいない。

不思議に思ってキョロキョロと探したが、誰も見当たらない。


「おい、おっさん!どこ見てんだ、こっちだよっ。」


ふてくされたような視線と顔。


「え、鹿?!」

「あほかっ、こんなカッコいい鹿がいるかよ。トナカイだよ、ト・ナ・カ・イッ!」


・・・・えーっと・・・。


「ああ、こっちの動物はしゃべれるのか・・?」

「そんなわけあるかよ、動物がしゃべれるわけねーだろ。」

「どうしたサミー?あれ、そいつもしかして?」


冷ややかな眼差しがぐるりと彼を囲んだ。

いつの間にか、数頭のトナカイの群れが彼の周りに集まっていた。

トナカイは動物じゃないのか、そう反論しようとしてやめた。

ここは普通じゃない。

昔、ハリウッド映画で見た童話仕立ての映画のように、おもちゃっぽい町にドデカすぎるツリー、喋る"動物じゃない"トナカイ。

こんな状況で正論を語るのは野暮。

いわゆる空気読めない奴のすることだと、彼は自分に言い聞かせた。


ふと、彼は不安になった。

これがもし、夢じゃないのだとしたら。

いや。

夢じゃなかったらなんだというんだ。

どうせ、自分は・・・。

彼は、深く暗いため息をついて首を振った。