「・・・やっぱりココかよ。」

「サムエル。」


若く凛々しいトナカイが、キィとドアを突いて現れた。


聞き覚えのある名前に、ペィラも振り返る。

鹿とトナカイの違いを語ったあの雄だ。

ペィラが声をかけようとした瞬間、バチッと目が合った。

射るような冷たい視線が、ペィラを怯ませる。


「メグ、練習に行かないと。ペアのアンリ、困ってるよ。」

「いっけない!そうよね、ごめんなさい。」

「俺は別にいいけどさ・・・」


サムエルの目が、ペィラとルベリーをさらりとひとなめした。

そして、ペィラのコートの辺りで止まる。


「・・やっぱりグリーンかよ。最低だな。」


吐き捨てるようなその一言に、さすがにペィラもヒクついた。

が。

情けないことに、彼は喧嘩が苦手だった。

ボディはもちろん、臆病風に吹かれると、石頭はたちまちただの石ころに変わる。

特に。

相手が真っ向から立ち向かってくる奴ほど苦手だった。

射すくめられるだけで、ペィラの口調はしどろもどろになり、腹ただしさだけが後に残る。

そういえば。

゛便利なペィラー゛

小学校の時、そうネーミングしたのは、クラスでもやたら目立つ三人組の、ちょっと偉そうなリーダーだった。

東洋混じりの端正な顔で、モテた上にノリがよく、誰からも人気があった彼は。

こともあろうか、自慢のうんちくで笑いをとったのだ。


『知ってるか?日本っていう島国では、お前のような奴を"洋ナシ(ペアー)"って例えるんだぜ。そいつは使えない"用なし"だってな。』


子供の頃からずんぐりとした体型だった彼。

母親の好んだ爽やかなグリーンの服は、その日から冷やかしの対象になった。


『便利なペィラー♪使えないペアー♪』


それ以来、ペィラーは果物が食べられなくなった。