ひざまずくペィラに、戸惑いながらメグが声をかける。


「・・・ペィラ。あなたは・・・・」

「メグ。」


老人は彼女をそっと制し、ペィラの傍らに屈んだ。


「君は、地下鉄に跳ねられたんだよ。」


フルフルと震える指先で、破れた書類を繋ぎあわせる。


「ペィラ。この国は、普通の人間には入れない。人を愛し、愛された人間の魂が、自分のなすべきことを求めてやってくるんだ。」


ペィラは破れた書類から離れない。


「君が、ここに来たのは間違いではないんだよ。君の家族の想いが道を開き、君の魂が望んでこの国にたどり着いた。それは使命だからだ。」


ペィラはぴたりと指を止めて、肩を震わせた。


「馬鹿な。」

「うん、何がだね?」

「家族が愛してる?私を?そんなはずはない!・・・私は、私にはどこにも居場所なんかなかった。」


ペィラは苦々しく言葉を噛み潰した。


「・・・・ペィラ。もしも、君がここに来た意味が分かったなら、もう一度ここへおいで。君が本当に欲したそのときに、この扉は再び開くだろう。それまでは、"その"コートで君のなすべきことをするがいい。」


えっ?とペィラが顔を上げた瞬間、温かい暖炉の部屋は消えた。

サンタクロースの格好をした老人も、ロッキンチェアもなく、辺りはほの暗い氷の壁に包まれていた。


「え、え?」


立ち上がったペィラは、もさっとした感触に驚いて転んだ。


「なんだ、こりゃ?」


ふかふかと自分を包むあたたかなコート。

まるで、サンタクロースになったようだ。

一つの相違点を除けば。


「緑・・・?」

「そうよ。」


カツンと蹄が鳴る。


「あなたは・・・愛が欠けた、見習いサンタなの。」