「・・・君が、ペィラか。」


パチパチと木のはじける音と、キィとロッキンチェアの軋む音が鳴る。

ペィラは顔を上げて、あっ!と小さく叫んだ。

幾度か見たことのある、いや、正しく言うなら、誰もがよく知っているけど、誰も本物を見たことがない・・偉大なお伽話の元気なじいさん。

老人はロッキンチェアを揺らして立ち上がった。

たっぷりとした巻き毛調の白い髭が、彼の赤いコートによく映えている。


「サ、サンタクロース?!」


ペィラは素っ頓狂な声をあげた。

そして、イヤイヤと頭を振った。


「そうか、なるほど。ここは秘密結社のおもちゃ製造工場で、サンタの格好してご満悦なあんたがボスというわけだな。」

「ぺ、ペィラ!なんてこと・・」


驚くメグをよそに、ペィラは無理矢理自分を納得させようと、うんうん頷いた。

本来、彼は頑固なリアリストだ。

森で目覚めてからというものの、見知らぬ氷の世界に、空飛ぶトナカイ・・エトセトラ。

彼の精神は、とっくの昔に許容範囲をぐんと飛び越えていた。

例えるなら、弾みすぎてエベレストの頂に突き刺ささり、うっかり遭難してしまってるくらい、といったところだろうか。


「お前もさ、メグ。早く出て来たらどうなんだ。トナカイにマイクなんかつけて、どこかで私を見て笑ってるんだろう。」

「ペィラ、何言ってるのよ。これは現実よ、それを受け入れて。」


メグが慌ててペィラを宥める。

しかし、一度吐き出した感情は留めることができない。

ペィラは激しくわめいた。


「私は!こんなところでほうけてる場合じゃないんだよ。昼前から大事な商談があるんだ。直ぐに家に帰って、忘れてきた書類を・・・」


ずっと黙っていた老人は、哀しそうに首を振った。

そして傍らの机から、一通の破れかけた茶封筒を取り上げる。


「君の探し物はこれだね?」


汚れてかすれたロゴに見覚えがある。

あっ!と叫ぶと引ったくるように奪い、中身を取り出した。

ひっくり返すと、ペィラが一晩中かけて作った見積書が、いとも無惨な姿でばさりと落ちる。


「どうして?!」


今にも泣き出しそうな悲鳴があがる。